
講義まとめ視覚障害教育指導法Ⅰ視覚障害自立活動:環境の把握(1)自立活動:環境の把握(4)自立活動:環境の把握(5)自立活動:コミュニケーション(4)
講義まとめ講義まとめ・視覚障害教育指導法Ⅰ少ない手がかりから確かに分かる ― 視覚障害教育の指導法:各教科の5つの配慮、点字と漢字、空間の概念、核になる体験
視覚障害教育指導法で学んだ、学習指導要領が示す視覚障害者への各教科の指導の5つの配慮事項、点字の読み書きの初期指導と漢字・漢語の指導、空間の概念と地図の指導、弱視の子の「見る力」を育てる段階、予測と確かめ、核になる体験をまとめる。
作成
目次
視覚障害教育指導法Ⅰの講義では、見えない・見えにくい子どもに各教科と自立活動をどう指導するかを学んだ。テキストは香川邦生 編著『五訂版 視覚障害教育に携わる方のために』(慶應義塾大学出版会、2016年)で、特別支援学校の学習指導要領とその解説も合わせて読んだ。
眼の仕組みや見え方の違い、通常の学級でできる見えやすい環境づくりは、視覚障害の心理・生理・病理の講義のまとめに書いた。
「空間に関する情報」が入りにくい
人が外の世界から得る情報の多くは、視覚から入る。テキストは、視覚が受け持つ情報の多くが空間の広がりに関するものであることから、視覚障害を「空間に関する情報の障害」と捉えるほうが正確だとしていた。
空間の情報が入りにくいと、安全に能率よく歩くこと(歩行)、着替えや食事などの日常生活の動作、普通の文字や絵を読み取ること(文字処理)に大きな制約が出る。この三つは「視覚障害者の三大不自由」と呼ばれることがあり、視覚特別支援学校の自立活動でも中心の課題になる。
聴覚や触覚からも空間の情報は入るが、視覚に比べて量が少なく、あいまいになりやすい。その少ない情報をどう使えるようにするかが、各教科にも自立活動にも共通する指導の課題になる。
各教科の指導で配慮すること
特別支援学校小学部・中学部学習指導要領は、視覚障害者である児童生徒に各教科を指導するときの配慮事項を五つ示している。表の左の列は、その要旨である。
| 配慮事項(要旨) | 学習指導要領解説が挙げる例 |
|---|---|
| (1) 的確な概念形成と言葉の活用 | 「手を振る」という言葉を知っていても、場面に合った動作ができないことがある。観察・実験・操作などの直接体験でイメージを作り、事物・事象や動作と言葉を結び付ける |
| (2) 点字又は普通の文字の読み書きを系統的に指導する。点字を常用する子にも漢字・漢語の理解を促す | 点字の表記の系統的な指導と、速く読み書きする指導。普通の文字では、漢字を部首に分けて基本漢字を確実にする |
| (3) 指導内容を適切に精選し、基礎的・基本的な事項から着実に習得させる | 理科で天体の動きを扱うとき、日なたと日陰の温度の違いから太陽の方向に気付き、光の強さを音の高さに変える感光器で太陽の動きを調べ、月や星の動きは太陽の動きから類推する |
| (4) 視覚補助具やコンピュータ等の情報機器、触覚教材、拡大教材、音声教材などを効果的に活用する | 触って調べるときは、まず全体をおおまかにつかみ、それから全体と部分を関係づけて詳しく調べる。表面作図器、触読用の物差し、音声温度計などを使う |
| (5) 場の状況や活動の過程を把握できるようにして、空間や時間の概念を養い、見通しをもって意欲的に学習できるようにする | 家庭科で、道具や材料がどこにあり、どの順で使うかを前もって確かめる。位置を時計の文字盤にたとえて「3時の方向」のように伝えるクロックポジション |
(3)の精選について、解説は、工夫すれば学習できる内容を、見えないことを理由に安易に扱わないことは精選に当たらないと注意している。基礎を確実にするのは、その後の内容を予測したり類推したりできるようにするためである。
点字の読み書きの初期指導
点字の仕組み
点字は、縦3点・横2列の6つの点の組み合わせで、かなや数字、記号を表す。フランスのルイ・ブライユが考案した6点の点字を基に、東京盲唖学校の教員だった石川倉次がかなに合わせた案を作り、1890年に日本の点字として採用された。
点字は指先で一マスずつ順に読み取る。上手な読み手は、点字を形として捉えるより、左から右への流れの中の特徴として捉えて読み進めているという。
読みを先に、書きは道具を選んで
点字の学習を始める前には、両手を滑らかに動かす、点の違いを触って見分ける、上下・左右の位置を分かる、言葉を音節に分けるといった準備が必要になる。ただし、テキストは、この準備を重く見すぎるとなかなか点字の学習に入れなくなるとも述べ、一人一人の状態をつかんで学習の計画を立てるよう求めていた。
先天盲の子どもに点字を指導するときは、書くより読むほうに時間がかかるため、一般に読みの学習を先に進める。点字は左右どちらの指でも読めるようにしておき、左手で行の前半、右手で後半を読み、その間に左手が次の行の頭を探す両手読みが効率がよいとテキストは述べている。
書きの学習では、道具の選び方が大事になる。
| 道具 | 書いた点字の向き | 入門期での扱い |
|---|---|---|
| 点字タイプライター(凸面に打つもの) | 書いた面をそのまま読める | 読みと同じ形で書けるので、入門期に向いている |
| 点字盤 | 紙の裏から右から左へ打ち、裏返して読む。書くときの点の並びが読むときと左右反対になる | 負担が大きい。持ち運びやすいので、適切な時期に導入し、高学年で使いこなせるようにする |
点字では、原則として文節の区切りで一マスあける分かち書きが大事な意味をもつ(「わたしは がっこうへ いく」のように書く。点字では「は」「へ」を発音どおり「ワ」「エ」と書き、「こう」は「コー」と書く)。テキストは、低学年で読み書きが一通りできるようになると、マスあけの学習がおろそかになりやすいと指摘し、その後も繰り返し確かめるよう求めていた。
点字を使う子にも、漢字と漢語を
点字はかなと同じく音を表す文字で、ふつうの日本語の点字では、同じ読みの漢字を書き分けられない。点字を常用する子どもも、日常の会話や学習で漢語には触れているが、思い違いが起こりやすい。テキストは、「音楽」を「音学」、「任期」を「人気」と取り違える例を挙げていた。
パソコンで点字と漢字仮名交じり文を変換できるようになり、視覚障害のある人自身が漢字仮名交じり文を書くことも、社会で求められるようになった。そのため、漢字の音・訓と意味を対応させる学習を中心に、部首や漢字の成り立ち、辞書の引き方を指導する。字形は意味の理解を助けるために扱い、凸文字のカードなどで部首や基本的な形に触れられるようにする。
空間の概念と地図
見えない子どもは、人の動きを見てまねることができない。そこで、空間の概念は自分の体から順に組み立てていく。テキストが示す進め方の一例は次のとおりで、子どもの実態に合わせて前の段階に戻ったり、教科の学習と行き来したりする。
- 体の部分の位置と名前を対応させ、自分の体を基準に上下・前後・左右を分かる
- 基準を自分から相手や物に移し、向かい合った相手の左右や、物の位置関係を分かる
- 球や円柱などの基本的な立体、そこから面の図形、線の図形へとイメージを作る
- 教室の机やロッカーの積み木模型で配置を作り、指で模型の中を「散歩」する
- 立体の模型から、触って分かる凸図の平面地図へ移り、校舎全体の地図を読む
テキストは、1階と2階の教室の位置関係が分かりにくい子に、2階の窓から垂らしたひもの先がどの教室に届くかを考えさせる例を紹介していた。立体模型を使った地図の初期指導には、十分に時間をかける。
この学習は教科の学習の土台にもなる。生活科で作る「絵地図」の代わりに立体模型を作る、社会科の地図の学習や算数の位置の表し方(「前から3番目」「左向こう」など)と関連させる、といった形で、教科の学習の流れと見通しをもって指導する。
「核になる体験」で経験を整理する
言葉だけが先に進む
見えない子どもは、実物や体験の裏付けがないまま、言葉の説明だけで分かったつもりになることがある。こうした状態はバーバリズム(唯言語主義)と呼ばれる。テキストは、聞いた情報からイメージを膨らませる力そのものは評価したうえで、誤ったイメージにならないよう情報を補うことが大切だとしていた。
触って調べにくいものは、山や海のように大きすぎるもの、虫のように小さすぎるもの、天体のように遠いもの、炎のように危ないものなどである。光や色のように触って確かめられないものも、モデルや感光器、生活に役立つ知識として伝える。
大根は畑で調べる
テキストは、たくさん経験させることより、経験を整理する枠組みを作ることが大事だと述べ、蔵書は多いが整理されていない図書館と、少なくても整理された図書館をたとえに挙げていた。
経験は、整理する枠組みがあって初めて次の学習に生かせる。
たとえば大根を調べるとき、店では、土を落とし、葉や細い根を取り除いた大根が売られていることが多い。それに触れるだけでは、大根の一つの面しか分からない。種まきから育て、畑で収穫し、洗って葉を落とし、店に並ぶ形になるまでを体験すると、にんじんやごぼうについて「大根と同じように畑で育つ」と説明したとき、それを手がかりにおおよそのイメージを作りやすくなる。形や葉の違いは、実物や模型で確かめて補う。テキストは、核になる体験の条件として、本物の体験であること、そこからイメージを広げられること、ほかの学習に転移することの三つを挙げていた。
弱視の子の「見る力」を育てる
弱視の子どもには、拡大教材や照明、机の高さなどで見えやすい環境を整える(外的な条件の整備)。テキストは、それと並行して、見た情報を処理する力そのものを育てる指導(内的な条件の整備)を挙げ、その段階を次の三つに分けていた。指導の目安としての整理で、すべての子が同じ順に進むとは限らない。
| 段階 | 子どもの姿 | 指導 |
|---|---|---|
| 見えても見えず | 視力の値から考えると見えそうなものを見つけにくい。見ることを楽しめていない | 基礎的な認知の力の指導。たくさんの物から指定された物を取り出す、形や大きさ・色などの属性に着目して比べる・分ける・並べるといった操作を、手や体の活動と結び付けて行う |
| 見る能力相応に見える | 視力相応に見ることができる | 応用的な認知の力の指導に、できるだけ早く入る |
| 見えないものまで見える | はっきり見えなくても、経験を基に「こうに違いない」と確かな予測ができる | 概念の枠組みを作る学習。漢字なら、部首に分けたり組み合わせたりしながら学び、一画一画が見えなくても字を特定できるようにする |
見つけにくさは、視力の値だけでは説明できない。視野やまぶしさ、対象の大きさや周りの情報の混み具合を先に確かめ、本人の意欲の問題と決めつけない。
「見えないものまで見える」は、視力を上げることではない。網膜に映った情報を、これまでの経験やイメージと照らし合わせて読み取る力のことで、ここでも核になる学習が土台になる。
自立活動 ― 予測と確かめ
少ない手がかりで判断する
自立活動では、空間の情報の少なさを補う力を育てる。テキストは、どの内容を指導するときにも、次の二つを大切にするとしていた。
- 少ない情報の中から、確かな情報を見つける(まっすぐ歩くために塀や壁を使う、音の出る信号機を使う など)
- 少ない情報から予測し、その予測が正しかったかを確かめる
テキストは、初めての部屋に入ったときの例を挙げていた。反響音などを手がかりに部屋の広さを予測し、壁まで歩いて確かめる。経験の少ないうちは予測が外れることが多いが、そのたびに確かめることで、次の予測が確かになっていく。使える手がかりは一人一人違う。手で物を調べる指導でも、物の一部に触れて全体を予測し、必ず確かめる。
歩行指導と6区分
白杖を使った歩行の指導は、自立活動のいくつもの区分にまたがる。白杖の操作や道路の横断は、本人の技能と経路の条件をつかんだうえで、専門性のある教員が段階を追って指導する。
| 区分 | 歩行指導とのつながり |
|---|---|
| 環境の把握 | 白杖や足の裏の感触、車の音や反響音を手がかりに、周りの状況や位置関係をつかむ |
| 身体の動き | まっすぐ歩く姿勢を保ち、路面を探りながら白杖を一定のリズムで振る |
| コミュニケーション | 道を尋ねる、手助けを頼む |
| 心理的な安定 | 一人で移動できた経験が自信になり、次の課題に取り組む意欲になる |
| 健康の保持 | 危険を予測して避け、事故やけがを防ぐ |
| 人間関係の形成 | 自分で移動できることで、人と関わる機会が広がる |
この表は、歩行指導と各区分の関連を示した例である。自立活動の指導計画は区分ごとに作るものではなく、子どもの実態から課題と目標を決め、必要な項目を選んで相互に関連付け、具体的な指導内容を設定する。
教員として考えたいこと
見えない・見えにくい子どもへの指導は、少ない手がかりから確かに分かる力を、どの教科でも少しずつ育てていくことだと理解した。
通常の学級で見えにくい子を担任したときは、まず本人と保護者に、困る場面と使いやすい方法を尋ねる。特別支援教育コーディネーターや視覚特別支援学校の相談支援とも相談しながら、新しい内容に入る前に実物に触れる時間を取る、道具の位置を決めておいて「机の右奥」のように言葉で伝える、机の配置を変えるときは前もって知らせる、といった工夫を試し、使ってみてどうだったかを本人に確かめる。
参考:香川邦生 編著『五訂版 視覚障害教育に携わる方のために』(慶應義塾大学出版会、2016年)第5章・第6章・第7章/特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年告示)解説 各教科等編 第3章 第2「視覚障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校」