教材研究ラボ
視覚特別支援学校の明るい教室で、目を閉じた男の子がパソコンにつないだ点字ディスプレイを指で読み、隣で眼鏡の女の子が拡大読書器の画面に大きく映った花を見ている。間で男性の先生が二人の手元をのぞき込んでいる

講義まとめ視覚障害教育指導法Ⅱ視覚障害重複障害自立活動:環境の把握(3)自立活動:環境の把握(5)自立活動:コミュニケーション(4)

講義まとめ講義まとめ・視覚障害教育指導法Ⅱ

道具と体験で学びを広げる ― 視覚障害教育の指導法Ⅱ:教科書と教材・教具、情報機器、乳幼児期の支援、重複障害

視覚障害教育指導法Ⅱで学んだ、点字教科書・拡大教科書・デジタル教科書、触図や弱視レンズなどの教材・教具、点字ディスプレイやスクリーンリーダなどの情報機器、乳幼児期の発達を支える体験と環境、視覚障害を伴う重複障害や盲ろうの子どもの理解と指導をまとめる。

作成

目次
  1. 教科書
  2. 点字教科書・拡大教科書・デジタル教科書
  3. 教材・教具
  4. 触って分かる図を作る
  5. 学習を支える道具
  6. 情報機器
  7. 情報の障害を補う
  8. 機器は基礎の学習の代わりにならない
  9. 乳幼児期の発達を支える
  10. 2次的な要因は変えられる
  11. 質の高い体験と、分かりやすい環境
  12. 視覚障害を伴う重複障害
  13. 重なりから生まれるニーズを捉える
  14. 盲ろうの子ども
  15. 教員として考えたいこと

視覚障害教育指導法Ⅱの講義では、視覚障害教育で使う教科書や教材・教具、情報機器と、乳幼児期の指導、視覚障害を伴う重複障害の子どもの指導を学んだ。テキストは小林秀之・澤田真弓 編著『特別支援教育のエッセンス 視覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)である。

各教科の配慮事項、点字の初期指導、空間の概念、核になる体験は、視覚障害教育指導法Ⅰの講義のまとめに書いた。

教科書

点字教科書・拡大教科書・デジタル教科書

視覚に障害のある子どもが使う教科書には、次のような種類がある。

種類 内容
点字教科書 国語・算数などは文部科学省が著作した点字教科書があり、それ以外は点字出版社が作る。元の教科書を大きく変えず、修正は最小限にとどめるのが原則で、図や写真の扱いには特に配慮する。どこをどう直したかは「点字教科書の編集資料」に示されている
拡大教科書 2008年の教科書バリアフリー法で、義務教育段階の弱視の子のための拡大教科書の発行が進んだ。標準規格では、本文を22ポイント程度とする版を基準に、18ポイント程度と26ポイント程度の版も作られる(小学3年生までは22・26・30ポイント程度)
学習者用デジタル教科書 2019年度から使えるようになった。視覚障害などにより学習上の困難を低減する必要がある子は、教育課程の全部で紙の教科書に代えて使うことができる。文字の拡大や読み上げ、色の変更ができるものが多いが、使いやすさは製品や端末によって違うので確かめる

テキストは、拡大教科書があっても、それだけに頼らず、弱視レンズなどを使って自分で文字を読み取る力も並行して育てる必要があるとしていた。教室の掲示や配付物、街中の文字は、いつも拡大されているわけではないからである。

教材・教具

触って分かる図を作る

見えない子どもが図や地図を学ぶには、線や形を指で触って分かる図(触図)が要る。テキストが挙げていた主な作り方は次のとおりである。

方法 特徴
立体コピー 特殊な用紙に印刷して熱を加えると、黒い部分が膨らむ。手軽に複製できるが、高さの違いは出せない
真空成形(サーモフォーム) 原版にプラスチックのシートを密着させて形を写す。細かい形や高さの違いも表せるが、原版づくりに手間がかかる
表面作図器 ゴム板に載せたシートをボールペンでなぞると、線が浮き上がる。授業中にその場で描いて説明できる
点図 パソコンのソフトで作り、点字プリンタで打ち出す。点字の説明も一緒に入れられる

図をそのまま浮き上がらせても、触って分かるとは限らない。指先は一度に狭い範囲しか捉えられないので、学習に必要な線だけを残し、形を単純にしてから作る。単純にしすぎると学習内容が失われることもあるので、作った図は実際に触って、線や形が見分けられるかを確かめる。

学習を支える道具

道具 使い方
弱視レンズ ルーペや単眼鏡のこと。手元を見る近用と、黒板などを見る遠用がある。倍率、見える範囲の広さと明るさ、ピントの合わせやすさなどを見て、一人一人に合うものを選ぶ
拡大読書器 カメラで写したものを画面に大きく映す。高い倍率が要るとき、白黒を反転させたいとき、楽な姿勢で読みたいときに向く。使いこなすには基本操作の練習が要る
感光器 光の明るさを音の高さに変える。理科で、水溶液の色の変化や光の当たり方を調べるのに使う
触読しょくどく用のものさし・作図器 目盛りが点や線で浮き出ている。三角定規や分度器、コンパスの代わりになる道具がセットになったものもある
視覚障害者用のそろばん 点字では筆算がしにくいので、計算にそろばんを使う。珠が動きにくい作りになっている

弱視の子の道具については、テキストは、まず市販の道具の使い方に慣れ、使い方を工夫し、合うものを市販品から探し、それでも合わなければ改良したり作ったりする、という順で考える例を紹介していた。弱視だから弱視用のノートと決めつけず、その子の見え方に合うものを選ぶ。

情報機器

情報の障害を補う

視覚障害は「情報の障害」とも言われる。パソコンやタブレットは、点字と普通の文字を変換したり、文字を音声で読み上げたりすることで、この困難を大きく補う。テキストは、情報機器は学習を効率よくし、生活の質や余暇、進路の選択肢も広げるとしていた。

支えること 機器・ソフトの例
点字の読み書き 点字ディスプレイ(ピンが上下して点字を表示する。入力用のキーを備えた機種もある)、点字エディタ、点字プリンタ、自動点訳ソフト
触図づくり 点図を作るソフト、立体コピー機、3Dプリンタ
見ること 拡大読書器、画面拡大ソフト、タブレットのカメラで黒板を写して拡大する
文字を読むこと 紙の文字を読み取って文字データにし(OCR)、音声で読み上げるソフト。章やページを選んで読めるDAISY図書(音声やテキストなどの形式がある)
パソコンの操作 画面の情報を読み上げるスクリーンリーダ
人とつながること Web会議システム。在籍する子が少ない学校どうしをつなぎ、話し合いの相手を増やす

機器は基礎の学習の代わりにならない

テキストは、自動点訳や漢字への変換ができるからといって、点字や漢字を学ばなくてよいわけではないと注意していた。自動点訳には誤りが含まれ、点字の知識がある人の確認が要る。スクリーンリーダは、同じ読みの言葉や音読み・訓読みを読み誤ることもある。情報機器を活用しながら、点字や漢字などの基礎も学び、紙と鉛筆、実物、パソコン、タブレットから、目的に合った道具を子ども自身が選べるようにすることが目標になる。

インターネットを使うことが増えるので、個人情報や著作権などの情報モラルの指導も合わせて行う。機器は年々新しくなるので、教員も知識を更新し続ける必要がある。

乳幼児期の発達を支える

2次的な要因は変えられる

テキストは、五十嵐信敬の整理を引き、視覚障害のある子どもの発達に影響する要因を二つに分けていた。脳の損傷の有無や失明の時期などの生理的な要因(1次的要因)と、見えないことで経験や情報が得にくくなるといった、視覚障害から派生する要因や環境・学習に関わる要因(2次的要因)である。2次的要因は、周りの関わり方で大きく左右される。

関わり方や環境を整えることで、経験や情報を得にくいことによる困難は軽減できる。

視覚障害のある子どもの発達に影響する要因を示した図。左に、変えにくい1次的要因(脳の損傷の有無、失明の時期など)がある。中央に、関わり方で軽減できる2次的要因として、行動の制限、視覚的な情報の不足、見てまねることが難しい、周りの態度(過保護)の4つが並ぶ。右に、関わりと環境の例として、自分から動きたくなる働きかけ、触って確かめる体験と言葉、一つずつ丁寧に教える、できることは任せる、が並ぶ。関わりの例は、どれも複数の困難に関係する

2次的要因として挙げられていたのは、次の四つである。

  • 行動の制限:離れた所にある人や物の場所が分かりにくく、魅力的なものが見えないので、自分から動くことが少なくなりやすい
  • 視覚的な情報の不足:言葉だけでは理解しにくく、知識が誤ったり偏ったりしやすい
  • 見てまねることが難しい:周りの人がしていることが分からず、やってみようという気持ちが起こりにくい。見える子がまねて自然に覚えることも、言葉で説明する、実物を触る、動きを一緒にするなど、子どもに合った方法で一つずつ教える必要がある
  • 周りの態度:「かわいそう」「できない」と必要以上に手を出すと、経験の機会を奪ってしまう

テキストは、10か月ごろ、1歳半ごろ、2歳半ごろ、4歳半ごろに発達が停滞しやすい時期があるという五十嵐の指摘も紹介し(全ての子に当てはまる基準ではない)、時機を逃さず働きかけるために早期からの教育相談が大切だと述べる。

質の高い体験と、分かりやすい環境

テキストは、乳幼児期の体験について、次の視点を挙げていた。

視点 例
核になる体験 魚なら、まずアジを一匹じっくり触って基本の形をつかむ。それを基に、サンマやタイと比べられる
切れ目のない全体の体験 調理の前と後で食材の形がどう変わるかを確かめる。野菜を種から育て、収穫し、調理するまでを体験する
体全体を使った体験 遊具やリズム運動、散歩で、距離や坂、高さを体で感じる。後の歩行の土台になる
音を手がかりにした体験 音のする方へ手を伸ばす、進む。セミの声を聞き、絵本や歌、実際に捕まえる体験へつなげる

視覚特別支援学校の幼稚部の明るい遊び部屋で、目を閉じた4歳くらいの男の子がマットに座り、トレイに載った一匹のアジを両手で触っている。ひれや尾に触れて、うれしそうに驚いた顔をしている。そばで男性の先生がひざをつき、頭から尾へと男の子の手を導いている。遊び場はじゅうたんと低い棚で区切られている

環境づくりでは、通り道に物を置かない、マットやじゅうたんで場所の範囲を分かりやすくする、毎日使う物は決まった場所に置き、置き場所を変えるときは必ず知らせる、といった工夫が紹介されていた。触って調べる物は滑り止めで固定し、人形などは子ども自身と同じ向きに置くと分かりやすい。

保護者への支援では、まず話を聞いて受け止め、一緒に考える。テキストは、関わり方や環境の工夫で発達を促せると伝えること、先輩の保護者と出会える機会を作ることを挙げていた。視覚障害のある子どもは数が少なく、家族が地域で孤立しやすいからである。

視覚障害を伴う重複障害

重なりから生まれるニーズを捉える

テキストによると、特別支援学校(視覚障害)では、視覚障害だけの子が減る一方、ほかの障害を併せもつ子の数はほぼ横ばいで、割合が増えている。テキストによると、併せもつ障害で最も多いのは知的障害である。テキストは、障害が重なると困難は足し算より掛け算のように大きくなると述べていた。たとえば、見えない子への支援は音声に頼ることが多いが、聞こえにも障害があればその方法は使いにくい。それぞれの障害への支援を足し合わせるより、重なっていることで生まれるニーズを捉える必要がある。

多くの発達検査は見えることを前提に作られているので、検査の結果は見え方の影響に注意して読む。実態把握では、行動観察を中心に、保護者からの生活の情報や、見え方・聞こえ方の専門的な評価を合わせる。テキストは、「できる・できない」に加えて、どんな条件や手助けがあればできるのか、その行動にどんな意味があるのかを捉えることを求めていた。見え方なら、明るさや背景とのコントラスト、距離を変えて、目で物を捉えたり追ったりするかを見る。触ることなら、触れられて受け止める段階から、自分から手を伸ばす、探す、部分を調べる段階へと進んでいるかを見る。

指導では、子どもの小さな発信を受け止めて応える関係を作ること、自分から周りを探る活動を促すこと、物の形や数、上下左右などの概念を意図して育てることが大切になる。

盲ろうの子ども

視覚と聴覚の両方に障害がある状態を盲もうろうという。見え方と聞こえ方の組み合わせで、全盲もうろう、全盲もう難聴、弱視ろう、弱視難聴の4つに分けられる。国立特別支援教育総合研究所が2017年度に行った調査では、回答した特別支援学校から報告された315人(教育相談の対象者を含む)のうち、弱視難聴が157人(49.8%)を占めた。見え方や聞こえ方が「測定不能・不明」の子も61人(19.4%)いて、実態を把握する難しさが表れている。

盲もうろうの子とのコミュニケーションでは、残っている視覚や聴覚に加えて、触覚を使う。言葉の基礎があれば、点字や指点字、手話を触って読み取る触手話しょくしゅわなどを使う。言葉の理解が難しい場合の手がかりには、次のようなものがある。

  • オブジェクト・キュー:活動に関係する実物や、その一部を手渡して伝える(スプーンを手のひらに載せて、給食の時間だと伝えるなど)
  • タッチ・キュー:肩や手など、決まった体の場所に触れて合図を送る

特別支援学校の落ち着いた教室で、補聴器をつけた8歳くらいの女の子がいすに座っている。前にひざをついた男性の先生が、片手で女の子の肩にそっと触れて合図を送り、もう片方の手で女の子の手のひらに小さなスプーンを載せている。女の子はスプーンを確かめながら、穏やかにほほえんでいる

テキストは、盲もうろうの子にとって、触れていない相手はいないのと同じになりやすいと述べていた。関わるときは、決めた合図で触れて自分がいることを知らせ、表情やしぐさの小さな動きを見逃さずに応える。触れられることを嫌がったり、手を引いたりしたときは、その気持ちを受け止めて関わり方を変える。

教員として考えたいこと

道具を用意した後は、子どもがそれを操作したり、必要な援助を自分から求めたりする時間を授業に組み込みたい。拡大教科書や情報機器を用意することと並行して、弱視レンズや点字、そろばんを使いこなす練習の時間も確保する。

見えない・見えにくい子が通常の学級にいるときは、板書を言葉でも伝える、教材を前もって渡す、照明や反射、座席を本人と確かめる、読むのにかかる時間や疲れ具合を聞く、物の置き場所を決めて知らせる、といった工夫から始められる。困ったときは、特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能に相談できる。

参考:小林秀之・澤田真弓 編著『特別支援教育のエッセンス 視覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)第4章・第7章・第8章・第9章