
名前が変わって何が変わったのか ― 教職概論:盲・聾・養護学校から特別支援学校へ
教職概論の講義の論述課題で考えた、盲学校・聾学校・養護学校が特別支援学校になった背景(障害の重度・重複化、発達障害のある子どもへの支援)と、2007年の制度改正で変わったこと、障害者の権利に関する条約との順序、名称変更をめぐる論点と、小学校の教員にとっての意味をまとめる。
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教職概論の講義では、教員という仕事の意義や役割、教員が働く学校の制度を学んだ。テキストは高妻紳二郎ほか『新版 教職概論 ― 先生になるということとその学び』(協同出版、2023年)である。科目修得試験の論述では、「従来の養護学校、盲学校、聾学校が特別支援学校に名称を変更したが、本当に名称を変更する必要性があったのか」というテーマが出た。
答案では、名称変更は妥当だったという結論を書いた。ただし、障害者の権利に関する条約と学校教育法改正の前後関係を取り違えており、名前を変えることと制度を変えることも分けて考えていなかった。
特殊教育の時代
2007年3月まで、障害のある子どもの教育は「特殊教育」と呼ばれていた。障害のある子どものための学校として、視覚障害の盲学校、聴覚障害の聾学校、知的障害・肢体不自由・病弱の養護学校が、障害の種類ごとに設けられていた。小・中学校には特殊学級があり、通常の学級で学ぶ障害のある子どももいた。1993年度からは、通常の学級に在籍しながら一部の時間だけ別の場で指導を受ける通級による指導も始まった。
この仕組みは、障害の種類と程度に応じて、特別な場で手厚く教育するという考え方に立っていた。2001年ごろから国の報告で見直しが進み、2007年の制度改正につながっていく。
名称変更の背景
障害の重度・重複化
一つは、障害の重度・重複化である。答案で引いた資料では、盲学校や聾学校にも知的障害など別の障害を併せ有する子どもが増え、肢体不自由の養護学校では、肢体不自由だけの子どもより重複障害のある子どものほうが多くなったと指摘されていた。障害の種類ごとに分かれた学校の枠では、一人の子どもがもつ複数の困難に応えにくい。
2005年12月の中央教育審議会答申「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」は、子どもの障害の重度・重複化に対応するため、盲・聾・養護学校を障害種別を超えた学校の制度に転換することを提言した。これが特別支援学校である。
通常の学級にいる子ども
もう一つは、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症など、知的な遅れのない発達障害のある子どもへの支援である。こうした子どもの多くは通常の学級に在籍しており、障害の種類で区分する特殊教育の主な対象には入っていなかった。
制度改正のあとの資料だが、文部科学省の2022年の調査では、公立の小・中学校の通常の学級に、知的発達に遅れはないものの学習面または行動面で著しい困難を示す子どもが、推定で8.8%在籍していた。これは担任などの回答による推定で、発達障害の診断がある子どもの割合とは違う。それでも、通常の学級で困難に応じた支援を考える必要があることは分かる。
2007年の制度改正で変わったこと
2006年6月に学校教育法が改正され、2007年4月に施行された。学校の名前のほかに、次のところが変わった。ただし、LD・ADHDの子どもが通級による指導の対象に加わったのは2006年度で、取り組みには2007年より前から続くものもある。表の条文番号は現行の学校教育法による。
| 変わったところ | 内容 |
|---|---|
| 学校の種類 | 盲・聾・養護学校が特別支援学校になった。一つの学校で複数の障害種に対応できる。各学校は、どの障害種の子どもを対象にするかを明らかにする(学校教育法第73条) |
| センター的機能 | 特別支援学校は、地域の幼稚園・小学校・中学校などの要請に応じて、障害のある子どもの教育について助言・援助を行うよう努める(同第74条) |
| 小・中学校など | 特別支援学級に加え、通常の学級も含めて、教育上特別の支援を必要とする子どもに、障害による学習上・生活上の困難を克服するための教育を行う(同第81条第1項) |
| 教員免許 | 学校種ごとの免許状が、特別支援学校教諭免許状にまとめられた。視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱の領域を定めて授与される |
特別支援学校のセンター的機能は、それまでも盲・聾・養護学校の学習指導要領で、地域の特殊教育に関する相談のセンターとしての役割が求められていた。改正後は、法律に書かれた役割になった。
小・中学校の側から見ると、第81条の意味が大きい。制度の上では、特別支援教育は全ての学校で行うものになった。
名前を変える必要はあったのか
答案で書いたこと
答案では、名称変更を次の理由で妥当だと考えた。障害の重複化に対応するために、障害の種類で分かれた学校の枠を外す必要があった。特別支援学校が地域のセンターとして位置づけられ、小・中学校で学ぶ子どもも支援の対象に入った。法令上の学校の種類を特別支援学校にまとめたことで、学校が一人一人の教育的ニーズに応じる場所だということがはっきりした。
順序の取り違え
ただ、答案では「日本が障害者の権利に関する条約を批准し、それを受けて学校教育法が改正された」と書いていた。これは順序が違う。
学校教育法の改正が成立したのは2006年6月で、条約が国連総会で採択された2006年12月より前である。日本が条約に署名したのは2007年9月、批准したのは国内の法律を整えたあとの2014年1月だった。特別支援学校の制度は、2001年からの国内の報告と答申を経て作られたもので、条約の批准を受けた改正ではない。条約が求める教育の仕組みと2007年の制度改正がどう関係するかは、年号を並べて確かめたうえで、別に考える必要がある。
名前をめぐる別の見方
学校の区分を一つにすると、障害の種類ごとに積み上げてきた専門性をどう保つかという課題が出てくる。名称変更の影響を直接示すものではないが、専門性を支える免許状の保有には今も課題がある。特別支援学校の教員は、原則として、勤める学部に対応する学校種の免許状(小学部なら小学校教諭免許状)と、特別支援学校教諭免許状の両方を必要とする。ただし、法律の附則で、当分の間は特別支援学校教諭免許状がなくても担当できることになっている。2023年度の文部科学省の調査では、特別支援学校の教員のうち、担当する障害種の特別支援学校教諭等免許状(自立教科等の免許状を含む)をもつ人は87.2%だった。ただ、障害種別に見ると、知的障害教育の90.3%に対して、視覚障害教育は65.3%、聴覚障害教育は60.3%にとどまっている。
また、制度上の学校の種類が特別支援学校になっても、学校の名前に「盲学校」「聾学校」を使い続けることはできる。実際に、長く使ってきた名前を残した学校も、「視覚特別支援学校」「聴覚特別支援学校」のように対象の障害種を名前に入れた学校もある。名前と制度は、分けて考える必要がある。
今振り返ると、法令上の学校の種類を特別支援学校にまとめることは、複数の障害種に対応する制度を表す名前として妥当だったと考える。一方で、個々の学校の校名まで一律に変える必要があったとはいえない。答案では、この二つを分けたうえで、専門性をどう保つかという課題も一緒に書くべきだった。
小学校の教員にとっての意味

小学校の担任にとって、この制度改正は遠い話ではない。通常の学級にも支援を必要とする子どもがいることを前提に、校内委員会や特別支援教育コーディネーターと相談しながら、指導を工夫する。困ったときには、地域の特別支援学校に相談し、先生に授業を見てもらったり、教材や環境の整え方を教えてもらったりできる。
たとえば、口頭の指示だけでは作業に取りかかりにくい子どもがいたら、まず本人や保護者と、どんな場面で困っているかを確かめる。そのうえで、手順を絵や短い言葉のカードで示し、取りかかるまでの時間が変わったかを記録して、校内委員会で効果を確かめ合う。
教員として考えたいこと
制度の名前は、ニュースや試験では大きく扱われるが、子どもにとって大事なのは毎日の授業と学級で何が変わるかである。教員として着任したら、まず校内の特別支援教育コーディネーターが誰か、地域の特別支援学校に相談するときの窓口と手順はどうなっているかを確かめておく。気になる子どもがいたときに、一人で抱え込まずにすぐ相談できるようにするためである。
参考:高妻紳二郎ほか『新版 教職概論 ― 先生になるということとその学び』(協同出版、2023年)/中央教育審議会答申「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」(2005年)/学校教育法 第72条〜第74条・第81条/文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」(2022年)/文部科学省「令和5年度特別支援学校教員の特別支援学校教諭等免許状保有状況等調査結果の概要」


