
教員が憲法を学ぶ理由 ― 日本国憲法:帝国憲法との比較、教育を受ける権利と教科書制度、人権学習の授業づくり
日本国憲法の講義で学んだ、大日本帝国憲法と日本国憲法の主権・権力分立・人権保障の違い、第26条の教育を受ける権利と義務教育の無償、旭川学力テスト事件が示した教育の自由と子どもの学習権、教科書の検定・採択・無償の制度、第3章を教材にした中学生向けの人権学習の教案と、その振り返りをまとめる。
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日本国憲法は、教員免許を取るために必ず学ぶ科目の一つである。講義のテキストは志田陽子 編著『【合格水準】教職のための憲法(第2版)』(法律文化社、2023年)で、教員が仕事の中で出会う憲法の論点を中心に学んだ。レポートでは、大日本帝国憲法と日本国憲法の比較と、第3章「国民の権利及び義務」を教材にした中学生向けの人権学習の教案を書いた。科目修得試験では、テキスト第9章「教育を受ける権利と児童の権利」を要約し、教科書検定について論じた。
大日本帝国憲法と日本国憲法
1889年に発布された大日本帝国憲法と、1946年に公布され1947年に施行された日本国憲法は、主権の所在、権力の分立、人権の保障のどれをとっても考え方が大きく違う。
| 観点 | 大日本帝国憲法 | 日本国憲法 |
|---|---|---|
| 主権 | 天皇が統治権を総攬する(天皇主権) | 主権は国民に存する(国民主権。前文・第1条) |
| 権力の分立 | 帝国議会は天皇の立法を協賛し、国務大臣は天皇を輔弼し、裁判所は天皇の名で裁判を行う。議会が閉会中で緊急の必要があるときに出せる緊急勅令などの天皇大権や、内閣から独立した統帥権があった | 国会は国権の最高機関で唯一の立法機関(第41条)、行政権は内閣(第65条)、司法権は裁判所(第76条)。内閣不信任(第69条)や違憲審査権(第81条)で互いに抑え合う |
| 人権の保障 | 臣民の権利として認められる。言論・集会・結社の自由など多くの自由に「法律ノ範囲内ニ於テ」という条件(法律の留保)が付き、法律による広い制限が可能だった | 基本的人権は侵すことのできない永久の権利(第11条・第97条)。法の下の平等(第14条)、普通選挙(第15条)、両性の平等(第24条)なども定める |
帝国憲法の下でも表現や結社の自由は書かれていたが、法律で制限することができ、戦時中は1938年の国家総動員法などによって大きく制限された。緊急勅令は、次の会期に議会へ提出して承諾を得なければ効力を失う仕組みだったが、議会を経ずに国民の権利に関わる定めを置ける手段でもあった。
日本国憲法では、人権は法律によっても侵すことのできないものとされ、法律や国の行為が憲法に反しないかを裁判所が審査する(第81条)。憲法は国の最高法規で、これに反する法律などは効力をもたない(第98条)。最高裁判所の裁判官は、就任後の衆議院議員総選挙の際などに国民審査を受ける(第79条)。
ただし、日本国憲法の下でも人権に限界がないわけではない。第12条・第13条は「公共の福祉」に触れており、ある人の権利と他の人の権利がぶつかるときに、その調整の考え方として使われる。表現の自由も、他の人の名誉やプライバシーとの関係で制限されることがある。
教育を受ける権利
第26条と義務教育の無償
第26条は、全ての国民が、能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利をもつと定め、保護者には子どもに普通教育を受けさせる義務を課し、義務教育は無償とすると定めている。テキストは、子どもが働かされて学ぶ機会を奪われてきた歴史を踏まえ、教育を受ける権利が、国に教育の条件整備を求める社会権として位置づけられていることを説明していた。
義務教育の無償について、最高裁判所は1964年の判決で、ここでいう無償とは授業料を取らないことだと判断した。教科書が無料で配られるのは、憲法から直接求められているからではなく、1962年の義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律で無償の原則が定められ、1963年の義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律で具体的な仕組みが整えられたことによる。
教育の自由と子どもの学習権
国が学習指導要領や教科書検定で教育の内容に関わることと、教員の教育の自由はどう両立するのか。この問題に最高裁判所が考え方を示したのが旭川学力テスト事件である。1961年に文部省が行った全国中学校一斉学力調査を阻止しようとした人たちが起訴された刑事事件で、その中で、教育の内容を誰が決めるのかが争点になった。最高裁判所は1976年の判決で次のように整理した。
- 子どもには、学習をして成長・発達していく権利(学習権)がある。
- 普通教育の教師にも、一定の範囲で教授の自由が認められる。ただし、子どもには批判する力が十分でないこと、教師の影響力が大きいこと、全国で一定の水準を保つ必要があることなどから、大学の教員のような完全な教授の自由は認められない。
- 親には家庭教育や学校選択などの教育の自由が、私立学校には私学教育の自由が、それぞれ一定の範囲で認められる。
- 国は、子ども自身の利益を守ることや社会公共の要請に応えるために、必要かつ相当と認められる範囲で教育の内容を決めることができる。ただし、子どもが自由で独立した人格として成長することを妨げるような介入、たとえば誤った知識や一方的な観念を植え付けるような内容の教育を強いることは許されない。
テキストは、学習指導要領を尊重しつつ、目の前の子どもの発達や多様さに合わせて指導を工夫する責任が教員にあることを強調していた。障害のある子どもへの支援やいじめの防止、児童の権利に関する条約(1989年採択、日本は1994年に批准)が求める子どもの意見の尊重も、学校が子どもの人格の成長の場であるために欠かせない、という説明である。
教科書の検定・採択・無償
試験で取り上げたのは、教科書検定と教育の自由の関係である。小・中学校の教科書は、民間の教科書会社が作り、文部科学大臣の検定を受け、公立学校では教育委員会が採択し、国の負担で子どもに無償で配られる。小・中学校では、原則として、検定を経た教科書か文部科学省が著作した教科書を使う(学校教育法第34条第1項。中学校は第49条で準用)。
答案では、須永哲思「現代公教育制度における教科書制度の意義と課題」(2021年)を手がかりにした。この論文は、教科書は検定に合格しなければ販売の見込みがなくなること、需要の総数が子どもの数に連動して決まるため参入する会社が増えると一社あたりの発行部数が減ることなど、一般の書籍とは違う構造を指摘している。答案では、この構造から、不合格になって販売の機会を失うことを避けようと、教科書会社が検定に通ることを優先し、記述を控えめにしたり過度に配慮したりする可能性があると考えた。これは論文を手がかりにした自分の推論で、実際にそうした影響がどの程度あるかまでは確かめていない。そのうえで、子どもの学習権をどう保障するかを軸に、検定の基準や過程を分かりやすく示すこと、学校が教科書以外の教材も工夫できる柔軟さを保つことが課題だと論じた。
第3章を教材にした人権学習
教案の概要
レポートでは、中学2年生向けとして、第3章「国民の権利及び義務」を教材にした1時間の授業を考えた。ただし、現行の学習指導要領では、基本的人権を学ぶ公民的分野は主に第3学年で扱う。実際に授業をするなら、学年と単元の位置づけから見直す必要がある。下の表は、提出したときの教案である。
| 段階 | 学習活動 | 指導上の留意点 |
|---|---|---|
| 導入 | 「みんなが学校に通って勉強するのはなぜか」「世の中にはどんな権利があるか」を出し合い、めあて「国民の権利と義務について考えよう」を確かめる | 意見を自由に出せる雰囲気を作る。教育を受ける権利、勤労や納税の義務など、身近な例から自由権・社会権・参政権の概要につなげる |
| 展開 | 3〜4人のグループで、事例(学級での差別的な発言、災害時の避難所での物資の分配、SNSでのプライバシーの侵害)を読み、「どの権利が関係しているか」「権利を守るためにどんな行動が必要か」を話し合って発表する | 教師が補足しながら意見を整理する。最後に個人でノートにまとめ、全体で交流する |
| まとめ | 権利を守るには、他の人の権利も尊重することが大切だとまとめる | 自分の生活の中の権利と義務を振り返る課題を出す |

振り返って考えたこと
教案のまとめは「権利と義務のバランスで生活が成り立っている」とし、「権利だけを求めすぎると社会がどうなるか」と問いかけて義務の大切さを考えさせる流れにしていた。講義を通して振り返ると、この流れには注意が要る。基本的人権は、人が生まれながらにもっているもので、義務を果たした見返りとして与えられるものとは考えられていない。この流れのままだと、「義務を果たさない人には権利がない」と受け取る生徒が出るおそれがある。
憲法が国民の義務として定めているのは、子どもに普通教育を受けさせる義務、勤労の義務、納税の義務の三つである。三つの事例も、性格が違う。差別的な発言は、まず被害を止め、傷つけられた人の尊厳を守ることが先にくる。避難所の物資の分配は、必要に応じた公平をどう実現するかの問題である。SNSの事例では、表現の自由とプライバシーをどう調整するかを考える。授業では、権利どうしがぶつかる場面で、どう調整するかを考えさせたい。そのためには、事例ごとに「誰のどの権利が、誰の行為によって損なわれているか」を先に整理させる。
1時間で扱うなら、事例を一つ(たとえばSNSの事例)に絞り、「関係する権利と、それを守るための対応を、理由とともに説明できる」を目標にして、ノートの記述で見取るほうが、話し合いが深まる。まとめの言葉も、「自分の権利と同じように、他の人の権利も大切にする」とするほうが、事例の話し合いとつながる。
教員として考えたいこと
憲法は、国や地方公共団体の権力を縛り、人権を守るための決まりである。第99条は公務員に憲法を尊重し擁護する義務を課しており、公立学校の教員も含まれる。学校の決まりや学級のルールも、子どもの権利と深く関わる。きまりで子どもの行動を制限するなら、その目的は何か、本当に必要か、ほかの方法はないかを考える必要がある。
児童の権利に関する条約第12条は、子どもが自分に関わることについて意見を表明する権利を定め、その意見を年齢や成熟の程度に応じて考慮することを求めている。学級のきまりを決めたり見直したりするときは、決める理由を子どもに説明し、発言のほか、紙に書いたり選んだりする方法でも意見を出せるようにする。出された意見を考えたうえで決め、その結果と理由を子どもに伝える。
参考:志田陽子 編著『【合格水準】教職のための憲法(第2版)』(法律文化社、2023年)/日本国憲法 第11条〜第15条・第24条〜第26条・第41条・第65条・第69条・第76条・第79条・第81条・第97条〜第99条/大日本帝国憲法 第4条・第8条・第29条など/最高裁判所大法廷判決(1964年2月26日、1976年5月21日)/学校教育法 第34条・第49条/義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(1962年)・無償措置に関する法律(1963年)/須永哲思「現代公教育制度における教科書制度の意義と課題」(2021年)/児童の権利に関する条約 第12条


