
インクルーシブ教育システムと合理的配慮
特別支援教育論で学んだ、インクルーシブ教育システムの考え方と連続性のある多様な学びの場、合理的配慮と基礎的環境整備、そして交流及び共同学習の要点。
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目次
特別支援教育への転換
2007年4月に施行された改正学校教育法により、「特殊教育」から特別支援教育へと制度が転換した。 障害の種類や程度に応じて特別な場で指導する考え方から、一人一人の教育的ニーズに応じた支援を行う考え方へと変わった点が重要である。 特別支援学校だけでなく、通常の学級を含むすべての学校で、特別な支援を必要とする子どもを支える仕組みになった。
インクルーシブ教育システム
障害者の権利に関する条約
障害者の権利に関する条約は、2006年12月に国連総会で採択された。日本は2007年に署名し、国内の法律を整えたうえで2014年に批准した。 条約の第24条(教育)は、障害のある人が障害を理由に教育制度一般から排除されないこと、必要な合理的配慮が提供されることなどを求めている。
これを受けて、2012年に中央教育審議会初等中等教育分科会が「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」をまとめた。日本のインクルーシブ教育システムの考え方は、この報告に基づいている。
- 障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指す
- ただし、同じ場で学ぶことだけを目的にするのではなく、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を受けられるよう、多様で柔軟な学びの場を用意する
連続性のある多様な学びの場
| 学びの場 | 概要 |
|---|---|
| 通常の学級 | 必要に応じて合理的配慮を受けながら学ぶ |
| 通級による指導 | 通常の学級に在籍したまま、一部の時間に別の場で、障害による学習上・生活上の困難の改善・克服を目指す指導(自立活動など)を受ける。2018年度からは高等学校でも行われている |
| 特別支援学級 | 小・中学校に設置される少人数の学級。必要に応じて特別の教育課程を編成し、自立活動などを行う |
| 特別支援学校 | 視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱(身体虚弱を含む)の子どもに、専門的な教育を行う学校。地域の学校への助言などを行うセンター的機能も担う |
図の4つは、障害の重さの順に並んでいるわけではない。通常の学級と通級による指導のように、組み合わせて使う場もある。 どの学びの場で学ぶかは、障害の状態だけで自動的に決まるのではなく、教育的ニーズ、本人・保護者の意見、専門家の意見、学校や地域の状況などを踏まえて総合的に決められる。本人・保護者の意見は、できる限り尊重される。
学びの場は、一度決めたら終わりではない。子どもの成長や状況に合わせて学びの場を見直していけること、そして場が変わっても指導や支援がとぎれずに引き継がれることが、「連続性のある」の意味である。
合理的配慮と基礎的環境整備
合理的配慮とは
条約では、合理的配慮を次のように定義している(要約)。
障害のある人が、ほかの人と平等に人権や基本的自由を享有・行使できるようにするための、必要かつ適当な変更や調整であって、特定の場合に必要とされ、かつ、均衡を失した、または過度の負担を課さないもの。
ポイントは3つある。
- 一人一人に対して行う:同じ障害名でも、必要な配慮は子どもによって違う
- 本人・保護者と学校の合意形成に基づく:学校が一方的に決めるのではなく、話し合って決め、個別の教育支援計画に書いて共有する。本人がうまく伝えられないときは、学校の側から困難に気付いて提案することも大切になる
- 過度の負担にならない範囲で:負担が過度かどうかは、担任一人の感覚ではなく、実現の可能性や費用、学校の設置者の体制などをもとに、学校として組織的に判断する。提供が難しい場合も、理由を説明し、別の方法を一緒に考える
条約では、合理的配慮を提供しないことも、障害を理由とする差別に含まれるとされている。
基礎的環境整備とは
合理的配慮の土台になるのが基礎的環境整備である。国・都道府県・市町村が、それぞれの学校や地域全体に対して行う環境の整備で、施設のバリアフリー化、ICT環境の整備、専門性のある教員や支援員の配置、通級による指導などの多様な学びの場の整備などがある。
土台の整備が進むほど、一人一人に必要な配慮の中身は変わる。たとえば、学級の全員がタブレットを使える環境が整っていれば、読み上げ機能を使うこと自体は特別なことではなくなる。それでも、読み上げに対応した教材を用意する、テストのときに使ってよいかを決めるなどは、本人の必要に応じて個別に調整することになる。
学校での合理的配慮の観点
2012年の報告では、学校における合理的配慮を「教育内容・方法」「支援体制」「施設・設備」の3つの観点(11項目)で整理している。
| 観点 | 内容の例 |
|---|---|
| 教育内容・方法 | 学習上の困難を改善するための指導、学習内容の変更・調整、情報・コミュニケーションや教材への配慮、学習機会や体験の確保、心理面・健康面への配慮 |
| 支援体制 | 専門性のある指導体制の整備、子ども・教職員・保護者・地域の理解啓発、災害時などの支援体制の整備 |
| 施設・設備 | 校内環境のバリアフリー化、発達や障害の状態に応じた指導ができる施設・設備、災害時などへの対応に必要な施設・設備 |
法律での位置づけ
2016年4月に施行された障害者差別解消法は、障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を求めている。国や自治体(公立学校を含む)には当初から義務とされ、民間の事業者は努力義務とされていた。 2021年の改正(2024年4月施行)により、私立学校を含む民間の事業者にも、合理的配慮の提供が義務付けられた。
交流及び共同学習
特別支援教育論の講義で中心に扱ったのが、交流及び共同学習である。障害のある子どもと障害のない子どもが、学校教育の一環として活動を共にすることを指す。 学習指導要領にも、交流及び共同学習の機会を設け、共に尊重し合いながら協働して生活していく態度を育むようにすることが示されている。
2つの側面
- 交流:相互のふれ合いを通じて、豊かな人間性を育む
- 共同学習:教科などのねらいを達成する
2つは分けられないものとして、一体に捉えることが大切である。仲良くなるだけでも、同じ教室にいるだけでもなく、同じ活動を共にしながら、一人一人がそれぞれの教育課程や個別の指導計画に基づくねらいを達成することを目指す。
4つの形態
学校間交流の相手は小・中学校に限らず、高等学校などの場合もある。また、直接会って活動するだけでなく、手紙や作品の交換、ICTを使ったやりとりなどの間接的な交流もある。 居住地校交流を進めるために、副籍・支援籍・交流籍などの仕組みをつくっている自治体もある。在籍校は特別支援学校のままで、住んでいる地域の学校とのつながりを保つための仕組みである。
文部科学省の調査(2016年度の実績)では、学校内交流は多くの学校で行われている一方、学校間交流や居住地校交流は実施が少なかった。実施していない理由には、人手や時間の確保の難しさのほか、近くに交流先がないことなども挙げられている。
進めるときのポイント
- 学校全体で、校長のリーダーシップの下に組織的に取り組む
- 一回きりの行事にせず、年間指導計画に位置づけて、事前の準備と事後の振り返りまで計画する
- 本人・保護者と相談し、参加の仕方(どの時間に、どのように参加するか、休憩や意思を伝える方法など)を本人が選べるようにする
- 事前に、活動のねらいについて子どもたちの理解を深めておく。相手の障害について周りに伝える内容は、本人・保護者の意向を確かめ、必要なことに絞る
- 活動の後は、ねらいの達成と、その後の日常での子どもの変容まで見取る
講義では、充実のための教員の工夫として、次のようなことも学んだ。
- 担任どうしが短い時間で情報を共有する仕組みをつくる(連絡ファイル、週案の共有など)
- 特別支援学級の子が交流先の授業に参加しやすいよう、関連する内容を事前に学習しておく
- 特別支援学級の担任が、障害のある子への関わり方を周りにモデルとして示す。「助けてあげる相手」ではなく「手立てがあれば自分でできる仲間」として見られるようにする
教員として考えたいこと
合理的配慮は「特別扱い」ではなく、学ぶ機会のスタートラインをそろえるための調整である。それは学習を始めるときだけでなく、授業中や評価の場面、進級したあとも、学びや参加をさまたげる壁を取り除くために続いていく。 通常の学級の担任として、どの子にも分かりやすい授業づくり(ユニバーサルデザイン)を基礎的環境整備として意識し、その上で、本人や保護者と話し合いながら個別の配慮を重ねていきたい。
交流及び共同学習は、障害のない子どもにとっても、多様な人と共に生きる力を育てる時間である。行事として「一緒にいる」だけで終わらせず、どの子にもその時間の学習のねらいが届くように、ねらいと手立てを両方の学級で一緒に考えたい。
参考:障害者の権利に関する条約(第2条・第24条)/中央教育審議会初等中等教育分科会「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(2012年)/障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律/文部科学省「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」(2022年)/文部科学省「交流及び共同学習ガイド」