
「支えがあればできる」に目を向ける ― 教育心理学:発達の最近接領域、無気力の仕組み、教師の期待
教育心理学の講義で学んだ、ヴィゴツキーの発達の最近接領域とレディネスの考え方、学習意欲の分類と無気力が生まれる仕組み(学習性無力感・原因帰属・達成目標)、段階に応じた関わり方、ピグマリオン効果とラベリング・光背効果をまとめる。
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教育心理学の講義では、子どもの発達や学習、意欲、教師と子どもの関係を、心理学の研究から考えた。テキストは櫻井茂男 編著『改訂版 たのしく学べる最新教育心理学 ― 教職に関わるすべての人に』(図書文化社、2017年)である。講義の課題には九つのテーマがあり、そのうち授業の中の関わり方に直結する三つを、ここではまとめておく。
発達の最近接領域
待つ教育と、促す教育
発達は、遺伝と環境が互いに影響し合って進むという考え方が、現在は主流になっている。そこから、発達を待って教育するのか、教育によって発達を促すのかという問いが生まれる。
前者の代表がゲゼルである。ゲゼルは一卵性双生児の一方に早くから階段のぼりの訓練をし、もう一方には後から短い期間だけ訓練した。すると、後から訓練したほうが速くのぼれるようになった。ここからゲゼルは、学習にはそれを成り立たせる準備状態(レディネス)が必要で、それは成熟によって整うと考えた(成熟優位説)。この立場では、教師の役割は、学べる時期が来るのを待つことになる。
援助があればできる領域
これに対して、ヴィゴツキーは、教育は「発達の最近接領域」を基礎にするべきだと考えた。自分で解決できる「今日の発達水準」と、自分では解決できない「明日の発達水準」の間に、他者の援助があれば解決できる水準がある。ヴィゴツキーは、この領域を教育の働きかけの対象とした。援助を受けながら学び、やがて一人で取り組めるようになることを目指す。
この考え方は、授業での関わり方を変える。既習の内容の定着も図りながら、新しい力を育てる場面では、援助があれば取り組める課題を用意する。手の届かない課題では子どもは動けないので、教材の難しさと援助の量を、その子が援助を受けて取り組める所に合わせる。
子どもの見取り方も変わる。一人で解けたかどうかと、どんなヒントや手助けがあればできたのかの両方を見る。たとえば算数の文章題で手が止まった子どもには、まず数量に目を向けるよう声をかけ、それでも難しければ一緒に図をかく。そのあと、似た問題を一人で解けるかを確かめる。できなかった記録は、次にどんな援助をすればよいかの手がかりになる。最近接領域の幅や位置は一人一人違うので、同じ課題でも必要な援助は子どもによって変わる。子どもを「いまできること」だけでなく、「支えがあればできること」で捉える。
学習意欲と無気力
学習意欲の分類
テキストは、学習意欲を「自律的な学習意欲(自ら学ぶ意欲)」と「他律的な学習意欲」に大きく分け、どちらも生じない状態を「無気力」としている。自律的な学習意欲には、おもしろいから学ぶ内発的な学習意欲と、自分が大切にする将来の目標に向けて学ぶ意欲が含まれる。
無気力を説明する考え方の一つに、自分の行動では結果を変えられないと学習してしまう「学習性無力感」がある。この場合、励ましや叱責だけでは取り組みにつながらないことがある。
無気力が生まれる仕組み
セリグマンらは、逃げられない状況で電気ショックを与えられ続けたイヌが、その後、逃げられる状況になっても逃げようとしなくなることを見いだし、これを学習性無力感と呼んだ。自分の行動では事態を変えられないことを学習したからだと解釈されている。
ただし人間の場合、「コントロールできない」と感じるだけで無気力になるとは限らない。エイブラムソンらの改訂学習性無力感理論は、失敗の原因をどう考えるか(原因帰属)を取り入れた。失敗の原因を自分の中にある(内的)、これからも続く(安定的)、ほかの場面にも当てはまる(一般的)ものだと考えるほど、無力感が生じやすいとする。たとえば、算数のテストが悪かった原因を「自分は頭が悪いから」と考えると、自尊心が下がり、無気力が長引き、ほかの教科にも広がりやすい。ワイナーらも、失敗を能力不足のせいにしやすい子どもは、達成しようとする気持ちを下げやすいと指摘している。
目標のもち方も関わる。新しいことを学び、自分が伸びることに価値を置く熟達目標に対して、よい成績を取って周りから能力を認められることに価値を置く成績目標をもつと、失敗を能力不足のせいにしやすく、無気力になりやすいとされる。
テキストは、日本の子どもについて、失敗を努力不足のせいにしているのに意欲が低い例があることも紹介していた。努力が大事だと分かっていても、どう勉強すればよいか分からないために努力できないのである。「がんばればできる」と言うだけでは足りず、具体的な勉強の仕方を一緒に考えることが必要になる。
段階に応じた関わり方
テキストは、学習意欲の状態ごとに、ふさわしい関わり方の目安を整理していた。子どもを決まった段階に当てはめるより、今どんな関わりが合うかを考える手がかりとして使う。
無気力な状態の子どもには、まず取り組むきっかけになるごほうびや声かけを用意し、うまくできたときにはごほうびやほめ言葉で応えて、「できた」という感覚(有能感)を支える。有能感が支えられると、人に言われて学ぶ状態から、自分で決めて学びたい状態に向かいやすくなる。自ら学ぶようになってからは、ほめ言葉は適宜にとどめて温かく見守り、自分で自分の頑張りを認められるよう促す。
注意したいのが、外からのごほうびの与え方である。もともと興味をもって取り組んでいた子どもに、物やお金を約束して与えると、内発的な意欲が下がることがある(アンダーマイニング現象)。ただし、この現象は、ほめ言葉を使う場合や、ごほうびを与える人と子どもとの間に良好な関係がある場合には起こりにくいとされている。
教師の期待が子どもを変える
ピグマリオン効果
教師の期待が子どもの態度や行動に影響し、期待した方向に変えていく現象を、教師期待効果という。
ローゼンサールとジェコブソンは、小学生に「学力が伸びる子が分かるテスト」と伝えて知能検査を行い、検査結果とは関係なく選んだ2割の子どもを「これから伸びる子」として担任に伝えた。教師が抱く期待の情報だけを操作したのである。8か月後に再び知能検査を行うと、期待を伝えられた子どもたちのほうが、ほかの子どもより得点の伸びが大きかったと報告された。研究者らはこの差を教師の期待による影響と解釈し、ピグマリオン効果と名付けた。
期待は行動になって届く
期待は、教師の行動を通して子どもに届く。ブロフィーとグッドは、教師が期待している子どもはよくほめ、間違えたときにヒントを出すことが多いのに対し、期待していない子どもには答えへのフィードバックが少なく、間違いを叱ることが多い傾向を見いだした。期待は、日々の声かけや誤答への対応の違いとして子どもに届いている。

この効果は反対向きにも働く。「反抗的な子」のようなレッテルを貼ると、本人の自己認識に影響し、レッテルに合う姿を作り出してしまうことがある(ラベリング理論)。また、一部のよい特徴に目を向けると全体をよく評価し、悪い特徴に目が向くと全体を悪く評価してしまう光背効果(ハロー効果)は、教師が子どもを理解するときにも起こりやすい。
教員として考えたいこと
三つのテーマに共通するのは、子どもの「できなさ」を子どもの中だけに見ないことだと学んだ。教師は、援助の出し方や誤答への対応を見直すことができる。子どもが失敗をどう受け止めているかも、話を聞いて確かめることができる。
授業のあと、その日に誤答した子どもの名前を思い出し、どの子にヒントを出し、どの子には出さなかったかを振り返ってみる。期待を、具体的な関わりとして全員に配れているかを確かめる手がかりになる。
参考:櫻井茂男 編著『改訂版 たのしく学べる最新教育心理学 ― 教職に関わるすべての人に』(図書文化社、2017年)第2章・第3章・第10章


