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講義まとめ講義まとめ・聴覚障害教育総論聴覚障害教育の基本 ― 聞こえの多様さと、言葉を育てる手段
聴覚障害教育総論で学んだ、聞こえの仕組みと難聴の種類・程度、日本語の習得の難しさ、口話法から手話を含む多様な手段への移り変わり、早期発見と保護者支援、通常の学級でできる配慮をまとめる。
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聴覚障害教育総論の講義では、聴覚障害の基礎と、日本の聴覚障害教育が歩んできた道のりを学んだ。テキストは中野善達・根本匡文 編著『聴覚障害教育の基本と実際』(田研出版)である。 学ぶ前は「聞こえない人は手話で話す」くらいの理解しかなかった。実際には、聞こえ方も、使う言葉や手段も、一人一人大きく違う。
聞こえの仕組みと難聴の種類
音は空気の振動として耳に入り、脳で意味として理解される。テキストはこの道筋を2つに分けて説明していた。
- 伝音系:外耳(耳介・外耳道)と中耳(鼓膜・耳小骨)。音の振動を内耳まで伝える
- 感音系:内耳(蝸牛)から聴神経、脳の聴覚中枢まで。振動を神経の信号に変え、処理する
どこに障害があるかで、聞こえ方が大きく変わる。表は代表的な傾向で、実際の聞こえ方は程度や人によって異なる。
| 種類 | 障害のある場所 | 聞こえ方 |
|---|---|---|
| 伝音難聴 | 外耳・中耳 | 音が小さくなるが、ゆがみは少ない。補聴器で音を大きくすると聞き取りが改善しやすい |
| 感音難聴 | 内耳・聴神経・脳 | 音が小さくなるうえに、ゆがんで聞こえることがある。音の高さによって聞こえにくさが違うこともあり、音を大きくしても、言葉がはっきり聞き分けられないことが多い |
| 混合難聴 | 両方 | 両方の特徴をあわせもつ |
テキストには、感音難聴の子が3人並んで歩いているときに後ろから1人の名前を呼ぶ、という例があった。3人とも声がしたことには気づいて振り向くが、誰の名前が呼ばれたのかは聞き分けられない、ということが起こりうる。補聴器や人工内耳をつけていても、聞こえにくさがなくなるわけではない。
聞こえの程度
聞こえの程度は、聞き取れる最も小さな音の大きさ(聴力レベル、単位はdB)で表す。数値が大きいほど聞こえにくい。日本聴覚医学会の分類(2014年)では、次のように分けている。
| 程度 | 平均聴力レベル |
|---|---|
| 軽度難聴 | 25dB以上40dB未満 |
| 中等度難聴 | 40dB以上70dB未満 |
| 高度難聴 | 70dB以上90dB未満 |
| 重度難聴 | 90dB以上 |
特別支援学校(聴覚障害)の対象となる障害の程度は、学校教育法施行令第22条の3で、両耳の聴力レベルがおおむね60dB以上で、補聴器などを使っても通常の話し声を理解することが不可能または著しく困難なもの、と定められている。聴力レベルの数値に加えて、補聴器などを使ったときの聞き取りが問われる。また、この程度に当てはまっても就学先が自動的に決まるわけではない。教育的ニーズや必要な支援、本人・保護者の意見などを踏まえて総合的に決められる。
いつ聞こえにくくなったか
聞こえにくくなった時期も大きく関わる。子どもは周りの人の話し言葉を聞いて日本語を身につけていくので、生まれてすぐの時期に重い聴覚障害があると、音声だけを通して日本語を自然に身につけることが難しくなる。テキストは、聴覚を通して日本語の基礎が作られる時期の目安として3歳ごろを挙げていた。早い時期から、音声でも手話でも、その子に届く言葉でやりとりを重ねることが大切になる。言葉を身につけた後に聞こえにくくなった場合とは、必要な支援が違ってくる。
日本語の習得と、読み書きの壁
慣れた相手や場面では会話のやりとりができていても、知らない話題や教科書の文章になると、理解の難しさが表れることがある。 テキストは、読書力の検査では個人差がきわめて大きく、学年相応以上の力をもつ子もいる一方で、聴覚障害特別支援学校の中学部・高等部でも小学校3・4年生程度とされることが多かった、という従来の報告を紹介していた。語彙の量や質、助詞の使い方、文脈をつかむ力、抽象的な言葉の理解などに、遅れや偏りが出やすいという。
「9歳の壁」という言葉は、元々聾学校の子どもたちの学力がこの時期に伸び悩む問題から生まれた。日常の会話で使う言葉(生活言語)から、教科の学習で使う言葉(学習言語)へどう橋渡しするかは、聴覚障害教育が長く向き合ってきた課題である。たとえば理科で、観察した実物や写真と結びつけながら「同じ」「違う」「〜だから」「もし〜なら」といった言い方で説明し合う活動は、この橋渡しの一つになる。
コミュニケーション手段の移り変わり
聴覚障害教育では、どの手段で教えるかをめぐって長い議論が続いてきた。テキストの第1章を基に、大きな流れをまとめる。
- 手話から口話法へ:日本で最初の聴覚障害児の学校は、1878年に京都で開かれた盲唖院である。古河太四郎は発音の指導も試みたが、授業では子どもたちが日常使う手話を「手勢」として活用した。1920年代に入ると、口の形を読み取り(読話)、声に出して話す口話法が広がり、1935年ごろにはほとんどの学校が口話法で教えるようになった
- 聴覚口話法の確立:戦後、補聴器が進歩して重度の子にも使えるようになると、残っている聴覚を積極的に使う聴覚口話法が1960年代に確立した
- 多様な手段へ:音声だけでは学びにくい子がいることから、栃木県立聾学校が手話や指文字を音声と同時に使う同時法を発表し(1968年)、京都府立聾学校などでは、子音を手指のサインで補うキュードスピーチを用いた指導が実践された(テキストは1969年の同校幼稚部の発表を挙げている)。1970年代には、聴覚・口話・手話・指文字・文字などあらゆる手段を組み合わせるトータルコミュニケーションの考え方がアメリカから広がった。文部省の調査研究協力者会議の報告(1993年)は、日本語によるコミュニケーションを基本にしつつ、手話や指文字、キュードスピーチなどの多様な手段も活用する方向を示した
- 手話を言語として:手話(日本手話)を第一言語とし、日本語は主に書き言葉で第二言語として学ぶ二言語二文化教育を行う私立の特別支援学校が、2008年に東京都の教育特区で開校した。2025年6月には「手話に関する施策の推進に関する法律」が成立・施行され、手話は使う人にとっての言語であり、重要な意思疎通の手段であると位置づけられた
手話とその他の手段
テキストは、手話を3つの使われ方に分け、さらに指文字と、音声の読み取りを助けるキュードスピーチを説明していた。キュードスピーチは手話とは別の、口の形を補う方法である。
| 手段 | 特徴 |
|---|---|
| 日本手話 | 日本語とは別の文法をもつ言語。手の形や動き、空間の使い方に加えて、表情や眉・頭の動きも文法の役割を担う |
| 日本語対応手話 | 日本語の語順に合わせて、単語を手話で表していく |
| 中間型手話 | 聞こえない人と聞こえる人が話すときなどに、2つが混じり合った形で使われる |
| 指文字 | 片手の形で五十音を表す。手話にない単語や、助詞を表すときなどに使う |
| キュードスピーチ | 口の形で母音を、手のサインで子音を示し、読話を助ける |
その他、筆談、文字や絵による提示、補聴器や人工内耳による聴覚の活用などがある。人工内耳は、内耳に埋め込んだ電極で聴神経に直接信号を送る機器で、補聴器よりも多くの音の情報を届けられる場合がある。 テキストは、コミュニケーション手段を身につけること自体は教育の目的ではないと述べていた。目的は、子どもがやりとりを通して知識を広げ、考え、人と関係を築けるようになることにある。そのためにどの手段が合うかは、聞こえの状態、言葉の育ち、家庭の考え、学ぶ場によって変わる。
早期発見と保護者への支援
生まれつき聞こえにくい赤ちゃんは、1,000人に1〜2人いるといわれる。現在は、生後すぐに眠っている間に短時間で行う新生児聴覚スクリーニング検査が広がり、以前より早く気づけるようになった。日本では2000年代からモデル事業などを通して導入が進み、生後1か月までに検査、3か月までに精密検査、6か月までに支援を始めるという「1-3-6ルール」が目安になっている。 早く気づけば、言葉の基礎が作られる時期に、音声でも手話でも、子どもに届く言葉の環境を整えやすくなる。
一方で、聴覚障害のある子の多くは、聞こえる親の元に生まれる。アメリカの調査(Mitchell & Karchmer, 2004)では、その割合は9割を超えると報告されている。生まれて間もないわが子の障害を告げられた保護者は、大きな不安を抱える。テキストは保護者への支援として、心理的なサポート、正確な情報の提供、同じ立場の保護者どうしのつながり、聞こえない大人と出会う機会などを挙げていた。人工内耳か、手話か、両方かといった選択に、家庭が納得して向き合えるように支えることも、早期支援の大事な役割である。
通常の学級でできる配慮
聴覚障害のある子は、聴覚障害特別支援学校の他、小・中学校の難聴特別支援学級、通級による指導、通常の学級でも学んでいる。テキストは、通常の学級での配慮として、聞き取りやすい座席、騒音を減らす工夫(切れ目を入れたテニスボールを机やいすの脚の先にかぶせるなど)、口の形をはっきり見せて話すこと、視覚情報を多く使うことを挙げていた。補聴器や人工内耳は先生の声だけでなく周りの雑音も大きくするので、机やいすを引く音が多い教室では、聞き取りたい声が雑音に埋もれやすい。どれも、本人の意見を聞きながら決めていく。授業の進め方では、板書を書き終えてから子どもの方を向いて説明する、資料を見る時間と話を聞く時間を分ける、発言する人を示して一人ずつ話す、友達の発言を教師が繰り返して伝える、といった工夫もできる。補聴器や人工内耳に先生の声を直接届ける補聴援助システムを使う場合もあるので、難聴学級や通級指導教室の担当者と相談する。
中学校についての章では、軽度や中等度で補聴器をつけている生徒でも、話し言葉を聞き逃したり聞き間違えたりすることがあると指摘していた。教師が板書しながら話す、先生の冗談で教室が沸いても何がおかしいのか分からない、といった場面が重なると、授業中は黙って時間が過ぎるのを待つようになりやすい。「聞こえなかったら聞き返しなさい」と言われても、本人には何を聞き逃したのかが分からない。 テキストは、ICF(国際生活機能分類)の考え方を引き、本人が力をつけることと併せて、授業の進め方や周りの人の態度といった環境を整えることを求めていた。ノートテイク(話の内容をその場で書き取って伝える)や手話通訳などの情報保障、教職員の研修、聞こえる子どもたちが聴覚障害について学ぶ機会などである。本人だけに努力を求めない環境を作ることが、学級担任にもできる支援になる。
教員として考えたいこと
聴覚障害は、聞こえの程度、障害のある場所、聞こえにくくなった時期、使う言葉の組み合わせで、一人一人まったく違う姿になる。補聴器をつけているから大丈夫、手話ができれば大丈夫、と一つの見方で決めつけないようにしたい。 通常の学級の担任になったら、まず本人と保護者、難聴学級や通級指導教室の先生に、どんな場面で聞き取りにくいのかを聞くところから始めたい。そのうえで、顔を向けて話す、要点を板書に残す、友達の発言も聞き取れたかを確かめる、といった配慮は、学級のルールとして毎日続ける。
参考:中野善達・根本匡文 編著『聴覚障害教育の基本と実際』(田研出版)/日本聴覚医学会「難聴(聴覚障害)の程度分類について」(2014年)/学校教育法施行令第22条の3/手話に関する施策の推進に関する法律(2025年)