教材研究ラボ
明るい教室で、補聴器をつけた男の子が手を挙げて手話で話し、人工内耳をつけた女の子がそれを見ている。男性の先生は子どもたちの方を向いて、ストーブに近づく赤ちゃんの絵カードを見せている

講義まとめ聴覚障害教育指導法Ⅰ聴覚障害自立活動:環境の把握(3)自立活動:人間関係の形成(3)自立活動:心理的な安定(3)自立活動:コミュニケーション(4)

講義まとめ講義まとめ・聴覚障害教育指導法Ⅰ

「わかった?」だけで確かめない ― 聴覚障害教育の指導法:各教科の6つの配慮、授業づくり、自立活動、きこえの教室

聴覚障害教育指導法Ⅰで学んだ、学習指導要領が示す聴覚障害者への各教科の指導の6つの配慮事項、聾学校での授業づくり(発問・板書・教材探し)、自立活動の課題と心構え、難聴通級指導教室の役割、通常の学級の担任ができることをまとめる。

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目次
  1. 聞こえにくさから広がる困難
  2. 各教科の指導で配慮すること
  3. 聾ろう学校での授業づくり
  4. 子どもを知ることから始める
  5. ねらいを示し、発問と板書を工夫する
  6. 身近なところから教材を探す
  7. 自立活動
  8. 多くの子に共通する課題
  9. 言葉を育てるからといって
  10. 補聴器と人工内耳を毎日確かめる
  11. 将来に向けて育てたい力
  12. きこえの教室(難聴通級指導教室)
  13. 聞こえたり、聞こえなかったりする子ども
  14. 通級による指導で行うこと
  15. 通常の学級の担任ができること
  16. 教員として考えたいこと

聴覚障害教育指導法Ⅰの講義では、聞こえない・聞こえにくい子どもへの授業づくりと自立活動、通常の学級に在籍する難聴の子どもへの支援を学んだ。テキストは宍戸和成・原田公人・庄司美千代 編『聴覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)で、聾ろう学校や難聴通級指導教室で長く指導してきた教員の経験が多く書かれていた。特別支援学校の学習指導要領とその解説も合わせて読んだ。

聞こえの仕組みや難聴の種類、コミュニケーション手段の移り変わりは、聴覚障害教育総論の講義のまとめに書いた。

聞こえにくさから広がる困難

テキストは、聴覚障害による困難を三つに分けて整理していた。耳のどこかに障害があって聞こえにくいことを一次的な障害という。聞こえにくさのために、話すことや読み書きなど言語活動に困難が生じることがあり、これを二次的な障害と呼ぶ。それがコミュニケーションのすれ違いを生み、心理的に不安定になることもあり、これを三次的な障害と呼ぶ。全員に順に生じるものではなく、早くから言葉や情報に触れられる環境や周りの支援によって、二次的・三次的な困難は小さくできる。

聴覚障害による困難の広がりを示した図。左から右へ、一次的な障害(聞こえにくさ)、二次的な障害(話す・読む・書くなど言語活動の困難)、三次的な障害(コミュニケーションのすれ違いや心理的な不安定)が矢印でつながっている。下に、言葉や情報に触れられる環境と周りの支援で二次的・三次的な困難は小さくできること、指導では言葉の力や心の育ちまでを見ることが添えられている

指導する側が耳や口の働きだけに目を向けると、言葉の力や心の育ちを見落とす。テキストは、二次的・三次的な障害まで考えることと、一人一人に応じることを、聴覚障害教育に求められる専門性として挙げていた。

各教科の指導で配慮すること

特別支援学校小学部・中学部学習指導要領は、聴覚障害者である児童生徒に各教科を指導するときの配慮事項を六つ示している。表の左の列は、その要旨である。

配慮事項(要旨) 学習指導要領解説が述べること
(1) 学習の基盤となる語句などについて、体験と結び付けて的確な言語概念を形成し、言葉で考える力を育てる 指導しようとする言葉について、子どもが生活の中でどれだけ具体的な体験をもっているかをつかみ、体験を言葉で整理させる
(2) 言語発達の程度に応じて、主体的に読書に親しみ、書いて表現する態度を養う 読書は間接経験を通して視野を広げる。「面白い」「また読みたい」と思えるようにし、内容が理解できているかを質問して確かめる
(3) 音声、文字、手話、指文字等を適切に活用して、発表や話合いで意思の相互伝達が活発に行われるようにする 聴覚活用、読話、発音・発語、文字、指文字、手話などから、子どもの実態に合わせて方法を選ぶ
(4) 補聴器や人工内耳等の利用により、保有する聴覚を最大限に活用し、効果的な学習活動が展開できるようにする 定期的な聴力測定や補聴器の調整の状態に留意する。水泳など補聴器を外す場面の指導も工夫する
(5) 言語概念や読み書きの力などに応じて、指導内容を適切に精選し、基礎的・基本的な事項に重点を置く 子どもが「分かる」ことに支えられて主体的に学べるよう、基礎的な事項に重点を置き、興味・関心のある事項を取り上げる
(6) 視覚的に情報を獲得しやすい教材・教具や、コンピュータ等の情報機器を活用する 視覚的に得た情報を、発問や板書を工夫した話合いで言葉にかみ砕き、教科の内容の理解につなげる

(6)にあるように、視覚的な教材は、見せて終わりにしない。見たことを話し合いで言葉にする過程が、(1)の言語概念の形成にもつながっている。

聾ろう学校での授業づくり

子どもを知ることから始める

聴覚障害のある子どもが学ぶ特別支援学校は、聾ろう学校の名前で呼ばれることも多い。テキストの小学部・中学部の章を書いた教員は、4年生を受け持ったとき、まず4年生の国語の教科書で教えようと考えたが、うまくいかなかったという。教科書の内容が子どもにどう受け止められているかをつかまないと、発問も、子どもの答えも受け止められない。

子どもの興味をつかむには、生活の中で関わることが大切になる。テキストには、花をじっと見つめている子に花の名前を教えようと話しかけていたら、子どもが見ていたのは花の蜜を吸うハチだった、という例が紹介されていた。子どもが何に注目しているかを想像して言葉をかけることが、授業での発問にもつながる。

ねらいを示し、発問と板書を工夫する

テキストが挙げていた授業づくりの留意点を、場面ごとにまとめる。

場面 留意点
ねらい 本時のねらいを最初に板書で示す。言葉の確認などで横道にそれることが多いので、先生も子どもも「今日は何を考えるか」にすぐ戻れるようにする。ねらいは絞り、評価しやすい具体的なものにする
発問 何を考えさせたいかが先生の中で固まっていないと、発問があいまいになる。子どもが文脈を考えず、言葉と言葉を機械的に合わせて答えていないか(マッチング)に気をつける。「なぜ」「どうして」と考えさせる発問を入れる
板書 色チョークの使い方のルールを決めておく。一度書いたら消さず、授業の流れが後から見て分かるようにする。全部を書き写させるのがよいかも考える
振り返り 授業の山場の10分ほどのやりとりを文字に書き起こして、発問を見直す

身近なところから教材を探す

「どうして」と聞かれたときにどう答えるかは、生活の中で練習しておく必要がある。友達が休んだ理由を聞かれたら、「昨日、咳をしていたから、風邪かもしれない。でも本当の理由はまだ分からない」のように、見たこと、そこから考えたこと、確かめていないことを分けて答えられるようにする。廊下の黒板に「研究会があるので教室をきれいにしよう」と書いておき、なぜきれいにするのかを尋ねる、といった工夫も紹介されていた。

テキストは、よちよち歩きの赤ちゃんが火のついたストーブに近づいていく絵を見せた例も挙げていた。先生は「危ない」という言葉が出ることを期待したが、子どもたちは「片手を挙げている」のように見えたものを答えた。語彙が豊かで文もしっかり書ける子どもたちだった。「何が見えるか」に加えて、「次に何が起こりそうか」「なぜそう思うか」を尋ねていくと、描かれたことから状況を推し量る学習になる。テキストは、こうした経験が物語文の出来事や主題を考える学習にもつながるとしていた。

自立活動

多くの子に共通する課題

聾ろう学校の自立活動では、言語、聴覚の活用、発音・発語、コミュニケーションのほか、障害の認識などを扱う。テキストは、課題は一人一人違うとしたうえで、多くの子どもに共通する課題として次の七つを挙げていた。

  1. 言語の習得
  2. 補聴器や人工内耳などを使って聞こえを保つ態度や習慣
  3. 視覚など、ほかの感覚の活用
  4. 社会性(他者の意図や感情の理解)
  5. コミュニケーション方法の習得
  6. 本人の障害理解
  7. 保護者(家族)との関係

これらを踏まえ、実態把握に基づいて、本人・保護者の意向も聞きながら目標と内容を決め、個別の指導計画を作る。言語面の比重が大きくなりやすいが、生活全体の発達の課題として捉える。

言葉を育てるからといって

テキストには、幼稚部の朝の会で、きちんと挨拶できた子に、もっと口の形をはっきり、大きな声でと何度も言い直させ、涙目にさせてしまったという教員の反省が書かれていた。先輩からは、言葉を育てるからといって何をしてもよいわけではない、と言われたという。

口の形や声をまねさせる指導は、子どもが話したいと思っているときに行う。実際の場面で、心を込めて言葉を使う「即時即場」が言語指導の基本だとテキストは述べていた。子どもが先生の小さな声に「何話してるの?」と聞いてきたときは、聞こうとする態度を育てる機会になる。聞き返したことを受け止め、その子が分かる方法で伝え直して、聞き返すことを安心してできるようにする。

補聴器と人工内耳を毎日確かめる

補聴器や人工内耳は、毎日の確認が欠かせない。テキストは、次のような様子があれば注意するよう挙げていた。

朝の教室で、男性の先生が子どものそばにひざをつき、聴音用のチューブで補聴器の音を確かめている。子どもは笑顔で待ち、後ろの席の子は耳に人工内耳を付けている

  • 機器を調整した後でも、聞こえ方に変化がみられない
  • 音をひどくわずらわしがる、聞き返しが多い
  • 今まで聞き取れていた音が聞き取れない
  • 声の調子がおかしく、発話が不明瞭になる
  • 耳をかゆがる、何度もイヤホンを外す

確認では、周りの音に加えて「自分の声が自分で聞こえているか」を子どもに尋ねることが大切だという。年齢が上がると管理を本人に任せることが多くなるが、子どもが自分で調子の変化に気付き、伝えられるように育てる。電池や充電、接続などの日々の確認の仕方は、本人・保護者と共有しておく。機器の調整は補聴器の販売店や医療機関が行うので、急に聞こえ方が変わったときや耳の痛みを訴えたときは、保護者に伝えて相談につなぐ。

将来に向けて育てたい力

テキストは、自立活動で目指す姿として、「自分をコントロールすること」と「肯定的な自己形成を図ること」の二つを挙げていた。

自分をコントロールすることには、どんな状況で聞こえにくいかを知る、聴覚障害の仕組みや病気の基礎を知る、補聴器や人工内耳、音声を文字にする情報機器の基礎を知る、聞こえにくさを改善する工夫をする、困ったときに周りの人に支援を求める、といったことが含まれる。肯定的な自己形成には、他者の評価を受け止めて自分の長所と短所を知る、補聴器や人工内耳を使う人、手話を使う人など様々な聴覚障害者がいることを知って互いに尊重する、仲間や先輩との出会いからロールモデルを見つけて将来像を描く、といったことが含まれる。

自立活動で将来に向けて育てたい二つの力を左右に並べた図。左の「自分をコントロールすること」には、どんな状況で聞こえにくいかを知る、聴覚障害の仕組みの基礎を知る、補聴器や人工内耳、情報機器の基礎を知る、聞こえにくさを改善する工夫をする、困ったときに周りに支援を求める、が並ぶ。右の「肯定的な自己形成を図ること」には、他者の評価を受け止め長所と短所を知る、様々な聴覚障害者の存在を知り互いに尊重する、仲間や先輩との出会いからロールモデルを見つける、が並ぶ

きこえの教室(難聴通級指導教室)

聞こえたり、聞こえなかったりする子ども

「きこえの教室」に通う子どもは通常の学級に在籍し、軽度から中等度の難聴の子が多い。片耳だけの難聴や、高い音だけが聞こえにくい子もいる。テキストは、この子たちに共通するのは、周りの環境や相手によって聞こえたり聞こえなかったりすることだとしていた。そのため、先生や周りの子どもが気付きにくく、本人も聞こえていなかったことに気付いていないことがある。

テキストは、聞き落としによる情報の不足から、自分が思ったことを変えにくい、自分だけが知らされていなかったと訴える、周りに合わせて動くのが難しい、といった姿が見られることがあり、頑固やマイペースと誤解されやすいと述べていた。

通級による指導で行うこと

通級による指導の目的は、在籍する学級で子どもが力を発揮できるようにすることである。障害による学習上・生活上の困難を改善・克服するための、自立活動に相当する指導を行う。必要に応じて各教科の内容を扱うこともあるが、教科の補習とは目的が違う。

  • 個別指導:興味・関心に合った活動で、聞く・話す・読む・書くをバランスよく組み込み、自信をもって取り組める程度から少し手ごたえのある程度の難しさにする
  • グループ指導:個別指導で学んだことを、在籍学級に近い集団で使ってみる場にする。同じ難聴の仲間と出会い、悩みを相談し合うこともできる
  • 自己理解:「にぎやかな所は苦手」「口の形を見ながら聞いている」といった自分の聞こえ方と、「近くで話してほしい」など協力してほしいことを、自分で説明できるようにする

学年が上がるにつれて、本人が必要な配慮を周りに伝える場面は増えていく。担任や学校は、本人と相談しながら環境を整える。本人が伝える力の土台として、自分のよいところを知り、難聴があっても力を発揮できるという自己肯定感を育てる。

通常の学級の担任ができること

テキストは、通常の学級で難聴の子どもが聞き落としやすい場面を具体的に挙げていた。配慮の列のうち、全校集会と校内放送・BGMの行は、テキストの説明を基に考えた工夫の例である。

場面 聞き取りにくい理由 配慮
全校集会 マイクの音が体育館で反響し、誰が話しているか分かりにくい。周りもざわつく 本人と相談して、話す人が見える位置にする。要点を紙や画面で同時に示す
校内放送・BGM 放送の前のチャイムに気付きにくく、キーワードがつかめない。給食や掃除の時間のBGMは雑音と同じになる 大事な放送の内容は板書や紙でも伝える。会話が必要な場面ではBGMを止めることも考える
板書や作業をしながらの説明 先生が黒板や手元を向くと、顔の表情や口元が見えない 書く・作業する時間と、話す時間を分ける
水泳 補聴器や人工内耳を外すと、指示が届きにくくなる 授業の流れを事前に説明し、プールサイドで小黒板などを使って指示を出す。止まる・集まるなどの合図を目で見て分かる形で決め、緊急時の対応も前もって共有する。外した機器の管理にも気を付ける
行事・宿泊行事 初めての場所で、緊張もあって聞き取りにくくなる 行動計画や持ち物の使い方を事前に知らせる。指示を書いて示せるよう、スケッチブックを持っておく
休み時間 遊びに夢中で、ルールが変わったことが分からない 仲間外れにされたと訴えたら、本人と周りの子の話を聞いて何があったかを確かめ、必要な情報を本人に伝える

このほか、授業中の話し合いでは話す人を示して一人ずつ話すようにする、座席や補聴援助システムなどの機器はきこえの教室の担当者と相談して決める、といった工夫もできる。

きこえの教室の担当者が、本人・保護者と内容を相談したうえで、学級の子どもたちに難聴について説明する授業をすることもある。テキストが紹介していた、周りの子どもへのお願いは、顔(口)を見せて話す、はきはきと話す、後ろからは聞こえないので肩を軽くたたいてから話す、補聴器や人工内耳を丁寧に扱う、といったものである。

理解を確かめるときにも注意がいる。テキストは、難聴の子どもは「わかった?」と聞かれると「わかった」と返事をすると述べていた。

「わかった」という返事だけでは、内容を理解できたかは判断できない。

「わかった?」「聞こえた?」と尋ねる代わりに、「次は何をするんだっけ?」のように、聞いた内容そのものを確かめる聞き方をする。

教員として考えたいこと

聞こえにくさは外から見えにくく、本人も聞き落としに気付いていないことがある。通常の学級で難聴の子を担任したら、まず本人と保護者、きこえの教室の担当者に、どんな場面で聞き取りにくいのかを聞く。そのうえで、話す前に顔を子どもの方に向ける、大事な連絡は板書や紙に残す、確認は内容で尋ねる、の三つを毎日の習慣にする。

参考:宍戸和成・原田公人・庄司美千代 編『聴覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)第4章・第6章・第9章/特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年告示)解説 各教科等編 第3章 第3「聴覚障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校」