
講義まとめ知的障害の心理・生理・病理知的障害自立活動:心理的な安定(2)自立活動:環境の把握(5)自立活動:コミュニケーション(1)知的:国語-1段階知的:算数-1段階
講義まとめ講義まとめ・知的障害の心理・生理・病理知的障害を理解する ― 定義、原因の見方、学び方の特徴
知的障害の心理・生理・病理で学んだ、知的障害の定義(知的機能・適応行動・発達期)と検査の読み方、原因を4つの観点からみる考え方、注意・記憶や読み書き・数の学び方の特徴、問題行動を機能から理解するABC分析をまとめる。
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目次
知的障害の心理・生理・病理の講義では、知的障害のある子どもを指導する前提として、その状態をどう理解し、どう実態を把握するかを学んだ。テキストは勝二博亮 編著『知的障害児の心理・生理・病理[第2版]』(北大路書房、2023年)である。 テキストの序章は、指導法を考える前に実態把握があると述べている。同じ「知的障害」でも、背景にある原因や、得意なこと・苦手なことは一人一人違う。
知的障害の定義
3つの要素
知的障害の定義は、アメリカ知的・発達障害協会(AAIDD)、アメリカ精神医学会のDSM-5-TR、世界保健機関のICD、文部科学省でそれぞれ示されている。表現は違っても、柱は共通している。
- 知的機能に明らかな制約がある
- 適応行動(日常生活で発揮される概念的・社会的・実用的なスキル)にも明らかな制約がある
- それが発達期に生じている
AAIDDの第11版は発達期を「18歳未満」としていたが、2021年の第12版では「22歳未満」に改めた。これは、制約が生じた時期についての基準である。
適応行動は以前から診断の要件に含まれていたが、重症度の分け方は変わってきている。以前のDSM(DSM-Ⅳ-TR)は重症度ごとにIQの範囲を決めていたが、DSM-5からはその規定がなくなり、適応機能の状態で重症度をみるようになった。文部科学省の『障害のある子供の教育支援の手引』(2021年)も、知的障害の状態は環境的・社会的条件で変わり得ると説明し、特別支援学校や特別支援学級の対象も、日常生活や社会生活への適応の観点を含めて示している。
日本では、1998年の法改正(翌年施行)で、法令上の用語が「精神薄弱」から「知的障害」に改められた。
検査の数値をどう読むか
知的機能は、田中ビネー知能検査ⅤやWISC-Ⅴなどの知能検査で、適応行動は、Vineland-Ⅱ適応行動尺度やS-M社会生活能力検査などで調べる。検査が難しい場合は、新版K式発達検査などの発達検査を使う。 「明らかな制約」の目安は、平均より約2標準偏差低いことで、ウェクスラー式の知能検査ならIQ70前後にあたる。ただしテキストは、次のような点に注意するよう繰り返していた。
- 検査の結果は、体調や検査者との関係などで一定の範囲で変動する。IQは絶対的なものではない
- 数値は、検査中の様子や日常生活の様子と合わせて解釈する
- 保護者や本人に伝えるときは、数値だけを示さず、支援の方向や具体的な手立てを一緒に示す
- 保護者などが答える形式の検査では、「できるだろう」「できないだろう」という見込みが結果に入り込むことがある
テキストは、WISC-Ⅴでの知的障害のある子の結果について、下位検査の間の差が比較的小さいことが多いと紹介し、その中で一つだけ高い項目があれば学習経験や生活環境の影響も考えられる、という読み方を挙げていた。ただし結果のばらつきだけで診断や原因を判断することはできない。検査の実施と解釈には専門的な訓練が必要で、教員は専門家と連携しながら、授業や生活の中で見た姿を支援に結び付ける役割を担う。
原因を4つの観点からみる
知的障害の原因は、出生前(遺伝子や染色体の異常、胎内環境など)、周産期(低出生体重、仮死など)、出生後(脳炎、頭部外傷、栄養不良など)に分けて整理される。ダウン症候群(多くは21番染色体が1本多い標準型)のように原因がはっきりしているものもあるが、実際には原因が分からない場合が多く、複数の遺伝子と環境の要因が絡み合っていると考えられている。
テキストは、AAIDDなどが示す次の4つの観点から、危険因子を包括的にとらえる考え方を紹介していた。発症に関わる要因に加えて、発達や生活の機会をさまたげる要因も含めて考える枠組みである。
| 観点 | 内容の例 |
|---|---|
| 生物医学的 | 遺伝子や染色体の異常、低出生体重、栄養不良 |
| 心理教育的 | 養育の問題、支援についての情報不足、診断が遅れて支援が遅れること |
| 社会文化的 | 貧困、健診やスクリーニングを受けていないこと |
| 公正性 | 障害を理由に、療育や保育などの機会が得られないこと |
テキストは胎児性アルコール症候群を例に、4つの観点がどう重なるかを説明していた。妊娠中の飲酒で脳に障害が生じるのは生物医学的な要因だが、その背景にアルコール依存や生活上の困難が重なっていることもある。また、療育を受けられるかどうかで発達は変わる。地域に療育の場がなければ、その機会自体が奪われる。いま目の前にいる子の姿は、これらすべてが影響した結果だという見方である。学校が家庭・医療・福祉と連携する理由もここにある。
注意・記憶の特徴
ワーキングメモリと長期記憶
テキストによると、知的障害のある子は短期記憶やワーキングメモリ(情報を一時的に覚えておきながら処理する力)に制約があることが多い一方で、一度覚えたことを長く保つ力は、それに比べて保たれている場合がある。テキストは、絵や具体物のほうが文字だけより記憶に残りやすいことも紹介していた。指示は短く一つずつにし、口頭の説明に絵や実物を添えるといった配慮は、ここから導かれる。どの手がかりが合うかは、その子の理解や感覚の特性に合わせて確かめる。
覚え方を知っていても使わない
覚えるためのやり方(記憶方略)には、繰り返し唱える、仲間ごとにまとめる、といったものがある。知的障害のある子は、方略を知っていても自分からは使わないことが多く、これを産出欠如という。テキストは、覚え方を教えたうえで、使ってみたらうまくいったという経験を通して、自分の覚え方を振り返る力(メタ認知)を育てることが大切だと述べていた。
原因によって特性が違う
同じ知的障害でも、原因となる疾患によって苦手なところが違う。テキストでは、ダウン症候群では言葉で聞いたことを覚えておくワーキングメモリが弱く、ウィリアムズ症候群では位置や形を覚えておくワーキングメモリが弱い傾向があると紹介されていた。障害名から一律に判断せず、その子がどこでつまずいているかを見ることが必要になる。
読み書きと数の学び
読み書きと音韻意識
テキストによると、知的障害のある子の読み書きの習得は、IQだけでは説明しきれない。中度の知的障害の子のほうが軽度の子より読み書きが進んでいることもあり、その差には音韻意識(言葉が音の単位からできていると気づき、音を取り出したり操作したりする力)の育ちが関わっているという。読み書きには語彙や文字と音の対応、書く動作なども関わるが、ひらがなの指導では音韻意識の育ちも評価し、言葉遊びと文字の指導を並行して進める。
| 活動 | 育てたい力 |
|---|---|
| 言葉を拍(「り・ん・ご」のような音の区切り)ごとに手をたたく | 拍に分ける |
| 拍の数だけ積み木を並べる | 拍の数を目で見て確かめる |
| 「あ」のつく言葉を集める | 音を取り出す |
| しりとり | 最後の音を取り出し、その音から始まる言葉を考える |
数は具体物から
数の学習では、遊びや生活の中で自然に身につく数量の経験(インフォーマル算数)が土台になる。知的障害のある子はこの経験が少なくなりがちなので、数唱、一つずつ対応させて数えること、最後に言った数が全体の個数になる理解、2つの量の比較などを、その子の実態に応じて関連付けながら育てていく。計算も、具体物、半具体物(おはじきやブロック)、数字の順に進める。 教室で身につけたことを生活で使うのは難しいことが多いので、買い物など生活の中で数を使う機会を意図してつくる。テキストは、成人したダウン症の人が職場での計測や買い物、予算立てに算数のスキルを使っている調査を紹介し、数の学習が生活の質を支えることを示していた。
問題行動を機能から理解する
誰にとっての問題か
テキストは、学校で「問題行動」という言葉が安易に使われていると指摘していた。教師がしてほしい行動をしていないことを、問題行動と呼んでしまうことがある。休み時間に積み木遊びに夢中でドッジボールに加わらないのは、それだけでは問題ではない。 自分や他人の体に危険がある、学習や生活への参加を大きく妨げる、といった行動であっても、テキストは、本人が困っているサインとして理解することを出発点にしていた。気持ちや要求をうまく伝えられないことが関係している場合があり、体調や痛み、感覚の過敏さ、課題の難しさ、周りの関わり方なども確かめる。
ABC分析と代替行動
行動の前後を、先行事象(A)・行動(B)・結果事象(C)の3つに分けて記録するのがABC分析である。
- A:積み木遊びに友達が加わってくる
- B:友達を叩く
- C:友達が離れ、一人で遊び続けた
同じような場面で繰り返し記録されるなら、叩くことで「一人で思い通りに遊べる」という結果を得ている、という仮説が立つ。その結果がある限り、叩く行動は続きやすい。「叩いてはいけません」と繰り返すだけでは、叩く行動は減りにくい。先行事象を変える工夫や、同じ結果を得られる別の行動(代替行動)を教えることが必要になる。
ABC分析は一度の記録で決めつけず、複数の記録から行動の機能(その行動で何を得ている・避けているか)の仮説を立てるために使う。機能は、感覚を求める、嫌なことから逃れる、注目を求める、物や活動を求める、の4つに整理されることが多い。テキストには、同じ「つばを吐く」行動でも、苦手な算数から逃れるためだった子には「教えてカード」で助けを求めることを、周りの注目を得るためだった子には「肩をトントンするカード」で呼ぶことを教えて、どちらも行動が見られなくなった例が紹介されていた。前者の例では、助けてもらうことで課題の負担が軽くなり、「つらい課題から逃れたい」という同じ要求が満たされる。代替行動で元の行動と同じ要求が満たされるようにすると、問題となる行動を置き換えやすい。
教員として考えたいこと
知的障害のある子を「IQがいくつの子」と見るのではなく、適応行動の様子、原因となる疾患の特性、育ってきた環境まで含めて、その子の姿を理解したい。検査の数値は、日々の観察と照らし合わせて、支援を考える材料として使う。 気になる行動を見たときは、まず本人と周りの安全を確保し、落ち着いてから、その直前に何があり、その後どうなったかを記録する。そこから、その子が何を得たり避けたりしているのか、どんな困難があるのかを考え、代わりになる伝え方を一緒に練習する。
参考:勝二博亮 編著『知的障害児の心理・生理・病理[第2版]― エビデンスに基づく特別支援教育のために』(北大路書房、2023年)/文部科学省『障害のある子供の教育支援の手引』(2021年)/Schalock, Luckasson, & Tassé『Intellectual Disability: Definition, Diagnosis, Classification, and Systems of Supports(12th ed.)』(AAIDD、2021年)