
教壇に立つ前に、課題を確かめ直す ― 教職実践演習(初等):資質能力、学級経営、模擬授業、危機管理
教職課程の最後に履修する教職実践演習(初等)のスクーリングで学んだ、教員に求められる資質能力の整理、学級開きや叱り方などの学級経営の手立て、模擬授業の講評、外国人児童の受け入れや危機管理・防災教育の考え方と、科目修得試験で書いた、教壇に立ってから続けたい三つの実践をまとめる。
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目次
教職実践演習は、教職課程の最後に履修する科目である。私が受講した授業では、4日間のスクーリングで、グループでの話し合い、学級懇談会のロールプレイ、一人15分の模擬授業などを通して、それまでの科目と教育実習で身に付けたことを確かめ直した。科目修得試験では、教職を学んで成長したことと、教員になってからそれをどう生かすかを論じた。
教職実践演習とは
この科目は、中央教育審議会の答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(2006年)を受けて、教職課程に置かれた。教職課程の他の科目や教育実習を通して身に付けた資質能力が、教員として最小限必要なものとして形成されたかを、大学が最終的に確かめる科目である。答申は、含めることが適当な事項として次の四つを挙げ、履修の時期は通常4年次の後期とし、ロールプレイやグループ討議、事例研究、模擬授業などを取り入れるよう求めている。
- 使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項
- 社会性や対人関係能力に関する事項
- 幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項
- 教科・保育内容等の指導力に関する事項
受講したスクーリングの活動を四つの事項に当てはめて整理すると、下の図のようになる。一つの活動が複数の事項に関わることも多い。
教員に求められる資質能力
1日目と2日目は、教員に求められる資質能力を、答申の言葉を手がかりに話し合った。
教育職員養成審議会の第1次答申(1997年)は、いつの時代にも教員に求められる資質能力として、教育者としての使命感、人間の成長・発達についての深い理解、幼児・児童・生徒に対する教育的愛情、教科等に関する専門的知識、広く豊かな教養と、これらに基づく実践的指導力を挙げている。そのうえで、今後特に求められるものとして、地球的視野に立って行動するための資質能力、変化の時代を生きる社会人に求められる資質能力、教員の職務から必然的に求められる資質能力を示した。
中央教育審議会の答申「新しい時代の義務教育を創造する」(2005年)は、優れた教師の条件を三つにまとめている。教職に対する強い情熱、教育の専門家としての確かな力量、総合的な人間力である。確かな力量の中身として、子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級づくりの力、学習指導・授業づくりの力、教材解釈の力が挙げられている。
話し合いで印象に残ったのは、「広く豊かな教養」をめぐる話である。テレビが中心だった時代と違い、今は子どもが動画サイトでそれぞれ別のものを見ているので、興味の向かう先が一人一人違う。変わらずに大切なことを守りながら、子どもが今何を好きなのかにも気を配っておくことが、教員の教養に含まれる。ICT や AI の活用をめぐっては、スライドは画面が次々に切り替わって前の内容が見えなくなるが、黒板は学習の経過が残るという意見が出た。スライドにも、前の画面に戻したり一覧で見せたりできるよさがある。便利かどうかより、その授業で何を身に付けさせたいかから道具を選ぶ判断が要る。
学級経営の具体的な手立て
学級開きの3日間
講義では、学級開きからの数日が学級づくりの出発点として大切だとされ、「黄金の3日間」という言葉も紹介された。この間に子どもの名前と顔を覚え、学級の決まりや一日の流れを示し、一人一人と言葉を交わす。最初の数日では緊張していて、普段の姿を見せない子もいるので、その後も対話と観察を重ねて理解を更新していく。また、学級づくりはマニュアルどおりには進まない。講師の言葉では、そこが教員の仕事の面白さでもある。
叱り方
叱り方については、次のことを学んだ。
- 大きな声を出さずに叱る。大人の大きな声を聞くだけで、自分が叱られていなくても不安になる子がいる。
- 叱るときは丁寧語を使う。
- 注意するときは、禁止や否定の言葉より、望ましい行動を伝える。講義では、廊下を走っている子への声かけとして、「走るな」より「走りません」、それより「歩きます」がよいという例が示された。
ただし、危険が迫っている場面では、短くはっきり止める言葉が必要になる。言葉だけで伝わりにくい子には、やって見せたり絵で示したりすることも合わせて考える。
学級の決まりも、「〜しない」と禁止を並べるより、望ましい行動の形で書くとよいとされた。また、「目指す子ども像」にとらわれすぎず、4月のその子と比べて成長を見ることや、子どもがじっくり考える時間を待つことも挙げられた。
朝の会・帰りの会と学級通信
朝の会と帰りの会は、一日の見通しを持たせ、一日を振り返る時間である。朝の会が長引いて1時間目の授業に食い込まないようにすることが大事だとされた。帰りの会の「よいこと探し」については、低・中学年には合うが、高学年では形だけになりやすいという意見が出た。学年だけで決めず、子どもがその活動をどう受け止めているかを見て、やり方を見直していく。学級通信には、担任の学級経営への思いや願い、学習面と生活面での子どもの様子、子どもの作品などを載せる。
学級懇談会
学級懇談会の挨拶のロールプレイでは、会の流れを書いたレジュメを配り、保護者の自己紹介で話してもらうことを前もって伝える工夫が紹介された。たとえば「優しい子です」のような言葉より、お子さんのよいところを具体的に一つ話してもらうよう頼んでおく。何を話せばよいかが分かると、保護者も安心して参加できる。
模擬授業から学んだこと
3日目は、受講者が一人15分ずつ模擬授業を行い、ほかの受講者が児童役になって互いに評価した。講師の講評には、学校で実際に気を付けることが多く含まれていた。
| 講評の内容 | 授業での手立て |
|---|---|
| 15分の授業でも集中が途切れる場面があった | 45分の中に、活動を切り替える区切りや息抜きを入れる |
| 淡々と話すと聞き手が眠くなる | 教師は「演じる」つもりで、声に抑揚をつける |
| 教科書をモニターに映すのはよいが、映す場所と教師の位置が離れていると、子どもはどちらを見ればよいか迷う | 映す場所と教師の立ち位置をそろえ、今どこを見ればよいかをはっきりさせる |
| はさみやカッターは危険が伴う | 学校の決まりに従って管理し、発達段階を見てどこまで任せるかを決める。予備も用意する |
| 教材にした作品や資料には著作権がある | 著作権法第35条により、授業のためなら、必要と認められる限度で、権利者の利益を不当に害しない範囲で、公表された著作物を複製して子どもに配ることができる。授業の外へ配ったり、ウェブで一般に公開したりするときは、別に許諾が要るかを確かめる |
| 子どもはコンパスを円をかくだけの道具だと思っていることが多い | 6年の拡大図と縮図の作図では、コンパスで中心から等しい距離にある点をとったり、長さを写し取ったりする使い方を、開きと長さの関係を確かめながら教える |
私は、小学校の教育実習の研究授業で扱った算数3年「重さの計算」を行った。授業中、児童役の受講者から「必ず式に単位をつけるんですか?」と聞かれ、私は板書の手を止めず、振り向かずに「必ず単位はつけます」と答えた。式にどう単位を書くのか、なぜそう書くのかを、自分の中で確かめきれていなかったからである。

教育実習でも、同じ日の算数の授業はうまく進められたのに、準備の足りなかった国語の授業では、その時間に押さえるべき内容を押さえ忘れた。準備の差が、そのまま子どもの学びの差になると感じた。重さの計算なら、使っている教科書が式をどう書いているかを確かめたうえで、「800と書いただけでは、800gか800kgか分からない」ことや、1kg100gから200gをひくときに「同じ単位どうしで計算する」決まりを、子どもの問いに向き合って説明できるようにしておくべきだった。コンパスの講評も同じで、道具や決まりの意味を教師が分かっていれば、子どもの誤りの理由にも気づきやすい。
多様な子どもと危機管理
ICT の活用
4日目は、授業支援アプリの実技から始まった。アンケート機能を使うと答えにくい質問にも答えやすくなることや、ベン図やピラミッド図などの思考ツールで考えを整理できることを体験した。一方で、端末を使ったグループ活動では、発表の間も聞き手がタブレットで別の作業をしていて、話が届いていないことがあるという事例も示された。今は何のために端末を使う時間かを教師がはっきり伝える。発表を聞くときでも、資料を拡大して見るなど、理解のために端末が必要な子がいることには配慮する。
外国人児童の受け入れ
来週から外国籍の子どもが転入してくるという場面を想定して、準備を話し合った。まず本人と保護者から、家庭で使う言葉、日本語の理解の程度、これまでの学習、生活の中で配慮が要ることを聞き取る。国籍だけで文化や宗教を決めつけず、宗教上の理由で参加しにくい活動や食べられないものがあるかも直接確かめる。言葉が通じにくい間も意思を伝えられるよう、絵カードを用意し、通訳や日本語指導の担当者とも連携する。学級の子どもに何をどこまで紹介するかは、本人と保護者の意向を確かめてから決める。
いじめ防止
いじめ防止対策推進法は、いじめを、児童等に対して一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的・物理的な影響を与える行為で、対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものと定めている。講義では、いじめはどの学級でも起こりうるという前提に立つこと、教師と子どもが一緒になって、いじめを「しない」「させない」「見過ごさない」学級の風土を作ることが大切だとされた。担任は子どもの小さな変化に気を配り、いじめが疑われる段階で記録し、一人で抱えずに学校のいじめ対策の組織に知らせ、被害を受けた子どもの安全を守りながら学校として事実を確かめていく。
危機管理と防災教育
学校の危機管理には、事故や事件を未然に防ぐリスク・マネジメントと、起きてしまったときに適切かつ迅速に対処するクライシス・マネジメントの二つの面がある。演習では、運動会の朝練習のために早く登校してくる子どもがいる日に、昇降口を開けると1階の廊下の窓ガラスが割れ、窓が開いていた、という場面を考えた。グループでは、登校してくる子どもを割れた窓に近づけないよう、別の場所に待機させること、すぐに管理職やほかの教職員に連絡することを出し合った。不審者が侵入した可能性があるので、一人で校舎を見回らず、複数の教職員で対応し、必要に応じて警察に通報する。
防災教育については、震災の映像や復興を願う歌が、被災した経験のある子どもにはつらい記憶を呼び起こす場合がある、という指摘が印象に残った。教育的な意図のある教材でも、子どもの経験によって受け止め方が変わる。火災のときは、安全な場所への避難と人数の確認が先である。そのうえで、避難した場所から炎が見える場合には、子どもが炎を直接見続けないよう、火と反対の方を向かせるという配慮も紹介された。
教員として考えたいこと
試験では、教職を学ぶ中で成長したこととして、子どもの姿をよく見て、行動の理由を確かめてから関わろうとするようになったことを挙げた。そのうえで、教員になってから続けたいことを三つ書いた。
- 授業の前に、「この1時間で必ず押さえること」とその根拠を書き出してから授業に臨む。重さの計算なら、教科書の式の書き方を確かめ、単位をそろえて計算する理由を説明できるようにしておく。
- 安心して間違えられる学級を作る。学級開きの3日間から一人一人の好きなことや苦手なことをつかみ始め、休み時間も子どもと過ごして関係を作りながら、理解を更新していく。
- 特別支援学級を担当するときは、特別支援学校の実習で学んだことを生かす。一人一人の実態把握を基に個別の目標と手立てを立て、本人ができたことと支援したことを分けて記録する。その記録を基に、減らせる声かけや手助けは少しずつ減らし、学習に参加するために必要な教材や補助具、環境の調整は続ける。困ったときは一人で抱え込まず、校内の先生や特別支援教育コーディネーターに早めに相談する。
教壇に立つまでに、まず担当する学年の算数と国語の単元を一つずつ選び、指導書と学習指導要領解説で「なぜそうするのか」を確かめたノートを作る。
参考:中央教育審議会「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006年)/中央教育審議会「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」(2005年)/教育職員養成審議会「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について(第1次答申)」(1997年)/いじめ防止対策推進法 第2条/著作権法 第35条


