
講義まとめ聴覚障害教育指導法Ⅱ聴覚障害自立活動:コミュニケーション(2)自立活動:コミュニケーション(3)自立活動:コミュニケーション(4)自立活動:人間関係の形成(2)
講義まとめ講義まとめ・聴覚障害教育指導法Ⅱ「分かる経験」を積み重ねる ― 聴覚障害教育の指導法Ⅱ:言語指導、方法の組み合わせ、話し言葉から書き言葉へ
聴覚障害教育指導法Ⅱで学んだ、生活言語と学習言語、コミュニケーションを人と人の間で捉える考え方、音声・手話・指文字・文字などを組み合わせる「足し算」の発想、話し言葉を書き言葉につなぐ段階的な指導、けんかや話し合いの場面での関わり方をまとめる。
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聴覚障害教育指導法Ⅱの講義では、聴覚障害教育の中心にある言語指導と、自立活動の指導を学んだ。テキストは、宍戸和成・原田公人・庄司美千代 編『聴覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)と、文部科学省『聴覚障害教育の手引 ― 言語に関する指導の充実を目指して ―』(ジアース教育新社、2020年)の2冊である。
授業づくりや自立活動の課題、きこえの教室の役割は、聴覚障害教育指導法Ⅰの講義のまとめに書いた。
生活言語と学習言語
どの学びの場でも共通の課題
手引は、子どもが身に付ける言葉を、生活言語と学習言語に分けて説明している。生活言語は、目の前の場面に支えられて、日常のやりとりで使う言葉である。学習言語は、言葉で言葉の意味を説明できる言葉で、主に学校の学習を通して身に付けていく。
補聴器や人工内耳の進歩で、聴覚を活用して話す力を伸ばす子は増えている。一方で、特別支援学校(聴覚障害)には、日常のやりとりを手話で行う子も少なくない。手引は、どの学びの場でも、どのコミュニケーション方法でも、共通の課題になるのは学習言語、特に読み書きの力の習得だとしている。学習言語は具体物で表せない抽象的な意味のものが多く、身に付くかどうかは、書き言葉をどの程度理解しているかに大きく左右されるからである。
手引は、読みに関わる困難として、抽象的な語や擬音語・擬態語の習得、助詞の理解、受身(「〜される」)、やりもらい(「〜してあげる」「〜してもらう」)、使役(「〜させる」)の文の理解などを挙げていた。小学部の高学年ごろになると、読み書きの力の個人差が大きくなる。
書かれていないことを思い浮かべる
文章を読むとき、人は書かれている言葉から場面を思い浮かべ、書かれていないことまで推し量って理解している。手引は、「空が暗くなってきました。」という文を読むと、暗くなっていく空を思い浮かべるとともに、「雨が降るかもしれない」「傘が要るかな」と考える、という例を挙げていた。このように頭の中に作る場面のモデル(状況モデル)を豊かにすることが、読む力の土台になる。
コミュニケーションは人と人の間にある
大人の側から矢印を伸ばす
『聴覚障害教育の基本と実践』は、コミュニケーションの捉え方を、子どもと大人の間の矢印にたとえて説明していた。言葉が十分でない子どもの発信は、大人まで届かないことがある。これを子どもの能力の不足と捉えると、子どもに訓練を重ねて、矢印を大人まで届かせようとすることになる。
テキストは、コミュニケーションを、人と人の間にあるもの(インターパーソナルなもの)として捉えることを勧めていた。そう捉えると、子どもの矢印が届かなくても、大人の側から矢印を伸ばして、先端どうしを触れ合わせればよいことになる。汲み取った意味は、子どもが分かる方法で「〜ということ?」と返し、反応を見て確かめる。子どもの表情、身振り、何を見ているか、声の調子、好きなものや嫌いなものから、言いたいことを汲み取る大人の感受性が、矢印を伸ばす力になる。
「分かっていない」ことが分かる
テキストは、乳幼児期から「分かる」経験を十分に積むことの意味を説明していた。その要点は次の一文にまとめられる。
「分かる」経験の積み重ねは、自分が「分かっていない」ことに気付く土台になる。
分かっていないことに気付ければ、「もう一度言って」「紙に書いて」「手話で話して」と、分かるための手段を自分から求められる。気付けなければ、あいまいなまま時間が過ぎていく。ただし、気付いても頼み方を知らなかったり、頼むことをためらったりする子もいる。聞き返し方を教師がやって見せて練習し、聞き返されたら周りが快く応じる学級を作ることも合わせて必要になる。この力は、教科の学習でも、学校を出た後の生活でも支えになる。
「小さな主語」と「足し算」
目の前のこの子にとって
聴覚障害教育の歴史は、口話か手話かといった指導法の対立の歴史でもあった。テキストは、「聴覚障害児にとって最良の方法は何か」と大きな主語で考えると、その方法に合わない子を切り捨てることになると指摘し、「目の前のこの子にとって分かりやすい方法は何か」と小さな主語で考えることを求めていた。
そのうえで、「〇〇を使わせない」という引き算ではなく、音声、手話、指文字、文字などを、場面に応じて組み合わせる足し算の発想をとる。子ども自身が場面に合わせて方法を選べる力も育てる。
方法ごとの役割
テキストが挙げていた、授業での使い方の例は次のとおりである。
| 方法 | 授業での使い方の例 |
|---|---|
| 聴覚の活用 | 知っている内容なら音声で理解できても、初めて学ぶ教科の内容は音声だけではあいまいになりやすい。手話や文字、実物の提示を合わせる |
| 文字 | 大事な情報を残し、後から確かめられるようにする。パソコンでの要約筆記や音声認識アプリも使えるが、誤変換は教師が直す。知らない語や難しい文は、文字にしても伝わるとは限らないので、言い換えや説明を添える。長い時間読み続けるのは負担が大きい |
| 指文字 | 日本語の音を一つずつ手で表す。「さかな」を「さなか」と言い誤ったときなど、音の並びを正確に確かめる場面で部分的に使う |
| キューサイン | 口の動きなどから話を読み取る読話で見分けにくい子音を手指の形や位置で、母音を口の形で示す。「たまご」と「たばこ」のように口の形が同じ言葉を見分けるのに役立つ |
| 手話 | 短い時間で多くの情報を伝えられ、子どもどうしのやりとりを支える。手話で意味を理解してから、それを日本語でどう表すかを学ぶことで、日本語の力にもつながる |
テキストは、卒業後の生活を見通し、手話と日本語(特に読み書き)の両方を身に付けて社会に送り出すことの大切さにも触れていた。使える方法が多いほど、場面に合わせて選べるようになる。
話し言葉を書き言葉につなぐ
会話や発音が滑らかでも、教科の学習に必要な日本語の力が十分とは限らない。たとえば、助詞だけが違う「ねこがいぬをおいかける」と「ねこをいぬがおいかける」を読んで合う絵を選ぶ、新しく学んだ語を別の場面で使ってみる、といった方法で理解を確かめる。
手引には、小学部低学年の学級での実践例が載っていた。保護者とのやりとりは良好だが、子どもの分かる言葉の範囲で会話が終わったり、あいまいな表出のままやりとりが終わったりすることが多く、子どもどうしでは話が通じにくい学級である。この学級では、教師は音声に手話を添えて日本語を伝え、子どもにも音声と手話での表出を求めた。ここでの話し言葉は、このやりとりを指す。話し言葉の指導と書き言葉の指導は関連付けて進められた。一つの学級の実践を整理したもので、全ての子に共通する固定的な発達段階ではない。
| 段階 | 話し言葉の指導 | 書き言葉の指導 |
|---|---|---|
| Ⅰ | 今ここで経験していることについてやりとりする。子どもの伝えたいことを受け止めたうえで、教師が正しい日本語の文で返し、子どもがまねる。遊びや体験の中で、子どもが何かを伝えようとした場面を使う | 身の回りの言葉を、絵と仮名文字、口形と結び付けて読み書きする |
| Ⅱ | 過去の経験について話す。経験を絵に描き、「だれ」「どこ」「いつ」「どのように」「なぜ」と問いかけて詳しく説明させる。子どもの話した内容を文字にして示し、話したことが文で書けると気付かせる | 絵を見て、音声や手話で文を言ってみた後、主語と述語のはっきりした短い文を書く。連絡事項を黒板に文で書き、文から情報を得る習慣をつける |
| Ⅲ | 友達の経験や身近な話題について話す。絵日記を題材に話し合い、やりとりが成り立つにつれて絵の手がかりを減らす。言葉の意味を言葉で説明させる | 友達の日記や自分の経験を題材にした文章を読み、問いに文で答える |
話す、文字にする、読む、を行き来することで、生活言語が学習言語へと少しずつ質を変えていく。この表は、手引の実践例を基に、段階の要点をまとめたものである。
けんかと話し合いの場面
子どもの言葉の段階で、関わり方を変える
テキストは、けんかの場面も、自分や相手を理解し、コミュニケーションを学ぶ機会になるとしていた。関わり方は、子どもの言葉の段階で変える。目の前の相手とのやりとりが中心の段階(一次的ことば)の子には、教師が間に入り、相手に伝わっているかを確かめて、気持ちを代弁したり、言い方の手本を示したりする。不特定の相手にも筋道立てて伝える段階(二次的ことば)に入った子には、二人のやりとりが成り立っていて、安全が保たれていれば見守る姿勢を大切にし、「どんなふうに話したら、あなたの気持ちが伝わると思う?」と、自分のやりとりを客観的に見るよう促す。

話し合う必然性のある題材
話し合い活動では、参加する子ども全員が分かる方法を確かめ、一人ずつ話す、発言を手話と文字でも示す、といった学級や学部で共通のやり方を決めておく。テキストは、話し合いの最中に口を挟むより、終わった後に振り返って助言するほうが、子どもが自分のやりとりに自覚的になれるとしていた。題材は、話し合う必然性があるものを選ぶ。「犬と猫のどちらを飼うか」より、「遠足のレクリエーションで何をするか」のように、決めた結果が自分たちに返ってくるもののほうが、子どもは本気で考え、伝え合う。
教員として考えたいこと
子どもの言葉が十分に届かないとき、まず大人の側から汲み取る努力をすることから始めたい。そのうえで、授業の大事な連絡は黒板に文で残す、子どもが話した内容を文字にして見せる、音声・手話・文字を場面に合わせて組み合わせる。話し合いのテーマは、子どもにとって決める理由のあるものを選び、終わった後に「伝わったか」「分かったか」を一緒に振り返る。
参考:宍戸和成・原田公人・庄司美千代 編『聴覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)第3章・第5章・第8章/文部科学省『聴覚障害教育の手引 ― 言語に関する指導の充実を目指して ―』(ジアース教育新社、2020年)第1章・第3章


