教材研究ラボ
光の差しこむ海の底で、岩穴の前にじっととどまる大きなクエと、もりの先を足もとへ下げてほほえむ若い漁師

国語6年単元「海のいのち」

国語国語・6年・海のいのち

海のいのち ― 瀬の主に「もりを打たなかった」太一の心の変化を、描写から読む

6年「海のいのち」(立松和平)の教材研究。父・与吉じいさ・母から太一が受け取ったもの、瀬の主の意味が変わっていくクライマックスの描き方、結末の余韻、教科書による本文の違いを整理し、8時間の単元計画・第6時の展開・発問・つまずき・板書計画をまとめる。

作成

目次
  1. 1. 単元の位置づけ
  2. 学習指導要領のねらい
  3. 教材について
  4. 2. 教材の本質
  5. 2-1. 瀬の主の意味が変わっていく
  6. 2-2. 三人から太一が受け取ったもの
  7. 2-3. 迷いをぎりぎりまで描いてから転換する
  8. 2-4. 語らない結末
  9. 2-5. 表現の工夫
  10. 2-6. 教科書による本文の違い
  11. 2-7. 主題は一つに決めない
  12. 3. 単元計画(例)
  13. 4. 第6時の展開:瀬の主と向き合った太一の心の変化
  14. 5. 発問集
  15. 6. 想定されるつまずきと手立て
  16. 7. 評価規準(例)
  17. 8. 板書計画(第6時)
  18. 9. 特別支援の視点
  19. 10. 実践に向けたメモ

1. 単元の位置づけ

学習指導要領のねらい

小学校学習指導要領(平成29年告示)国語の第5学年及び第6学年では、次の指導事項が中心になる。

指導事項 本単元での具体
〔知識及び技能〕(1)ク「比喩ひゆや反復などの表現の工夫に気付くこと」 「青い宝石の目」などの比喩ひゆや、「おとう」という呼びかけに気付き、その効果を考える
〔思考力、判断力、表現力等〕C 読むこと (1)イ「登場人物の相互関係や心情などについて,描写を基に捉えること」 太一と父・与吉じいさ・母・瀬の主との関係と、クライマックスでの太一の心情を描写から捉える
C 読むこと (1)エ「人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり,表現の効果を考えたりすること」 離れた場面の言葉を結び付けて、太一の生き方と物語の全体像を想像する。呼びかけや比喩ひゆの効果を考える
C 読むこと (1)オ「文章を読んで理解したことに基づいて,自分の考えをまとめること」 「太一はなぜもりを打たなかったのか」を、根拠を挙げて文章にまとめる
言語活動例 C (2)イ「詩や物語,伝記などを読み,内容を説明したり,自分の生き方などについて考えたことを伝え合ったりする活動」 太一の生き方から考えたことを書き、伝え合う

評価の中心はC(1)イとエに置く。単元の終わりの「生き方について考えたこと」は、道徳の感想文にならないよう、本文のどの言葉からそう考えたのかを必ず書かせる。

教材について

「海のいのち」は立松和平の作品で、1992年にポプラ社から出た絵本『海のいのち』(絵・伊勢英子)がもとになっている。1996年から光村図書と東京書籍の6年の教科書に載り、長く読まれてきた。

父はもぐり漁師で、大物をとっても自慢せず「海のめぐみだからなあ」と言う人だった。その父は、瀬の主と呼ばれる巨大なクエに挑んで命を落とす。太一は一本釣りの漁師、与吉じいさに弟子入りし、「千びきに一ぴきでいいんだ。」という教えのもとで一人前になる。与吉じいさが亡くなったあと、太一は父の死んだ瀬にもぐり続け、ついに瀬の主と向き合う。しかし太一はもりを打たずに去る。その後、太一は村一番の漁師であり続け、瀬の主のことを生涯だれにも話さなかった。

教科書によって本文に違いがある。東京書籍は「海のいのち」、光村図書は「海の命」と題名の表記が違い、行空きの入れ方や、光村図書版にだけ加えられた一文もある(2-6で扱う)。この記事の引用は、絵本と教科書版を比べた研究論文に引かれた本文と、これまでの教材研究のノートを照らし合わせたもので、漢字・仮名・句読点が教科書と違うことがある。授業では手元の教科書の本文で確かめる。

2. 教材の本質

2-1. 瀬の主の意味が変わっていく

この物語の中心は、太一にとって瀬の主が何であるかが変わっていくことにある。

場面 太一にとっての瀬の主 手がかりになる描写
父の死 父を破った相手 父は瀬の主に挑み、海から帰らなかった
瀬にもぐり続ける一年 追い求めてきた夢 ほかのクエには興味をもてず、「青い宝石の目」を見つける
向き合う場面 とらなければ一人前になれない相手 太一は泣きそうになりながら、この魚をとらなければ本当の一人前の漁師にはなれないと思う
転換 「おとう」 「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから。」
結末に向けて 海のいのち 「大魚はこの海のいのちだと思えた。」

ここで気をつけたいのは、教材の本文には「かたきを討つ」とはっきり書かれていないことである。太一が瀬の主を追う理由として本文が示しているのは、「本当の一人前の漁師」になることのほうだ。子どもからは「お父さんのかたきだから」という読みがよく出る。その読みを否定せず、「本文ではどう書いてある?」と問い返し、太一が何を目指していたのかを本文で確かめさせる。

もとになった絵本の前には、父の敵討ちを主な筋にした短編「一人の海」があった。絵本と教材では敵討ちの色が薄められ、漁師としての生き方に焦点が移っていると指摘されている(加藤 2023)。

2-2. 三人から太一が受け取ったもの

太一は、三人の大人からそれぞれ違う影響を受けていると読める。どれも本文に「受け取った」と書かれているわけではないので、ここでは読みの一例として整理する。並べるときは、主語を「太一」にそろえる。

人物 本文の言葉 太一への影響として考えられること
父 「海のめぐみだからなあ」 海を敬う気持ち。もぐり漁師へのあこがれ
与吉じいさ 「千びきに一ぴきでいいんだ。」 必要な分だけをとり、海とともに生き続けるという漁師の考え方
母 「夜もねむれないよ。」 自分の命を案じる人がいることへの気づき。太一は、たくましい背中に母の悲しみさえも背負おうとしていたと語られる

母の欄は、「太一を心配する気持ち」と書くと母の気持ちになってしまい、ほかの二人と主語がずれる。母の言葉から太一が何を受け止めたのか、という形にそろえると、三人の影響を比べられる。

父・与吉じいさ・母の三人から太一への影響を、読みの一例として示した図。左に三人を縦に並べ、父は「海のめぐみだからなあ」から海を敬う気持ちを、与吉じいさは「千びきに一ぴきでいいんだ」から必要な分だけとる考え方を、母は「夜もねむれないよ」から命を案じる人がいることへの気づきを、それぞれ点線の矢印で右の太一へつないでいる。太一から右へ、瀬の主にもりを打たない選択へ点線の矢印がのびる

父と与吉じいさは、漁の仕方が違う。父はひとりで瀬にもぐり、もりで大物をしとめるもぐり漁師だった。与吉じいさは一本釣りで、決まった数をとると道具を片づける。太一は与吉じいさのもとで一人前になったあと、父と同じ瀬にもぐるようになるが、その日もまず、いつもの一本釣りで漁をしてから瀬へ向かっている。父にも「海のめぐみ」という海への敬意があり、二人の生き方は対立するものではない。二人から何を受け継ぎ、どんな漁師になるのかが、瀬の主の前で問われる形になっている。

2-3. 迷いをぎりぎりまで描いてから転換する

クライマックスは、太一の迷いを何度も描いてから、短い時間で向きを変える。

  1. 瀬の主を見つけ、興奮していながら太一は冷静だった。もりを突き出すが、瀬の主は動こうとしない。息が苦しくなり、いったん浮かぶ。
  2. もう一度もどっても、瀬の主はおだやかな目で太一を見ている。太一は、この大魚が自分に「殺されたがっている」とまで思う。
  3. 太一は泣きそうになりながら、この魚をとらなければ本当の一人前の漁師にはなれないと思う。
  4. 水の中でほほえみ、もりの刃先を足のほうへどけ、「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから。」と呼びかける。
  5. 「こう思うことによって、太一は瀬の主を殺さないですんだのだ。」

クライマックスでの太一の心の動きを、読みの一例として、左から右へ本文の順に並べた図。瀬の主を見つける、もりを突き出すが動かない、おだやかな目で見られる、泣きそうになりながらとらなければと思う、と迷いが高まっていく。いちばん高くなった直後に向きが変わり、ほほえんでもりの刃先を足のほうへどけ「おとう」と呼びかけ、殺さないですんだ、海のいのち、へと静かに下りていく

上の図は、本文の描写の順に、太一の張りつめた気持ちの読みの一例を重ねたものである。迷いがいちばん強くなった直後に転換が来るので、読み手は「なぜここで変わったのか」を考えずにはいられない。転換のきっかけは本文に一言で書かれていない。瀬の主の静かな様子、与吉じいさの教え、父への思い、母の言葉など、離れた場面の描写を結び付けて考える必要がある。C(1)エの「全体像を具体的に想像する」学習に向いているのはこのためである。

「殺さないですんだ」の「すんだ」にも注目させたい。「殺せなかった」と言い換えると、できなかったという意味が前に出る。「殺さないですんだ」からは、殺すことを避けられたという安心が読み取れる。また、「こう思うことによって」とあるので、太一は瀬の主を「おとう」と思うことで、殺さない道を自分で見つけたとも読める。

2-4. 語らない結末

太一は村のむすめと結婚して子どもを育て、村一番の漁師であり続けた。母はおだやかで満ち足りたおばあさんになった。そして太一は、巨大なクエを岩の穴で見かけたのにもりを打たなかったことを、生涯だれにも話さなかった。

その後の暮らしの描かれ方は、太一が自分の選択を肯定的に受け止めていたという読みを支える。一方で、なぜ話さなかったのかは書かれていない。「自分だけの大切なことだったから」「話すと瀬の主がねらわれるから」「父と会えた場所を守りたかったから」など、読み手によって答えが分かれる。単元の終わりに、この問いを自分の考えをまとめる題材にできる。

2-5. 表現の工夫

表現 例 読み手への効果
比喩ひゆ 瀬の主の「青い宝石の目」 父を破った恐ろしい魚が、美しく、ひきつけられる存在として現れる
呼びかけ 「おとう、ここにおられたのですか。」 なぜ打たないのかを説明する言葉がないのに、瀬の主が父と重なったことが伝わる
繰り返される言葉 「一人前」「村一番の漁師」 太一が目指すものと、ほかの人が太一に見ているものの違いを考える手がかりになる

表現の工夫は、名前を当てて終わりにしない。その言葉があることで、太一や瀬の主がどう見えるかを話させる。

2-6. 教科書による本文の違い

東京書籍版と光村図書版は同じ絵本をもとにしているが、1996年に教科書に載ったとき、次の点が違っていた(加藤 2023)。行空きなどは改訂で変わることもあるので、使う版で確かめる。

違い 東京書籍「海のいのち」 光村図書「海の命」
題名と本文の表記 「いのち」 「命」
行空き 結末の場面の前の1か所だけ 4か所。結末の前の改ページと合わせて、全体が六つに区切られる
加えられた一文 なし 与吉じいさの死後、母が毎日見ている海が、太一にとって「自由な世界」になっていた、という一文

光村図書版の一文については、太一の独り立ちを補うものとする見方と、かえって読みを混乱させるとする見方がある。研究会や教科書の異なる学校と授業を共有するときは、本文の違いを先に確かめておくと話がかみ合う。

2-7. 主題は一つに決めない

「なぜ打たなかったのか」には、子どもから次のような読みが出やすい。

出やすい読み 本文に戻して確かめること
勝てそうになくて、こわくなった 太一はもりを突き出せる位置にいた。そのあと、自分でもりの刃先を足のほうへどけている。「殺さないですんだ」の「すんだ」からどんな気持ちが読み取れるか
母を一人にできないから、がまんした 母への思いだけで、「ほほえみ」「おとう」「殺さないですんだ」を説明できるか。結末の太一の暮らしとどうつながるか
与吉じいさの教えを思い出した 本文に「思い出した」とは書かれていない。どの描写とどの描写を結び付けるとそう言えるか
瀬の主が父に思えたから 「こう思うことによって」の「こう」は何を指すか

どの読みも、本文の言葉を根拠に話せていれば認める。そのうえで、打てなかったのか、打たないことを選んだのか。その違いを、本文の言葉で比べさせたい。

3. 単元計画(例)

令和2年版の教科書では、東京書籍は6年の9〜10月、光村図書は3月の単元に置いている(堀江 2023)。配当時間は版や学校によって違うので、年間計画で確かめる。ここでは8時間で計画する。

時 学習活動 指導のポイント
1 全文を読み、初めの感想と、みんなで考えたい問いを書く 「なぜ打たなかったのか」が出たら単元の問いとして残す。初読で心が動いた箇所に印を付けさせる
2 場面に分け、時・場所・人物を整理して、あらすじをつかむ 太一の年齢と立場の変化(子ども、弟子、一人前の漁師)で区切ると分けやすい
3 父の生き方と死を読む 「海のめぐみだからなあ」から、父が海をどう見ていたかを考える
4 与吉じいさのもとでの太一を読む 「千びきに一ぴき」の意味と、父の漁との違いを比べる。与吉じいさの死を太一がどう受け止めたかを読む
5 母の言葉と、瀬にもぐり続ける太一を読む 母の「夜もねむれないよ。」から、太一の心の中を母がどう見ていたかを考える
6 瀬の主と向き合った太一の心の変化を読み、なぜ打たなかったのかを話し合う(本時) もりの刃先をどける前と後を対比で整理する。三人の言葉と結び付ける
7 結末を読み、太一が生涯話さなかった理由を考える 答えを一つに決めず、根拠の違いを比べる
8 太一の生き方から自分が考えたことを書き、読み合う。第1時の感想と比べる 「本文の言葉 → 自分の考え」の順で書かせる。道徳の感想文にならないよう、根拠の言葉を必ず入れる。初めの感想から変わったところ・変わらなかったところを、根拠とともに書き添えさせる

第8時の文章の型の例を示す。

私は、太一の(  )という生き方から、(  )ということを考えた。そう考えたのは、本文に「(  )」と書かれているからだ。これは(  )の場面の「(  )」とつながっていて、(  )。私は自分の生活の中で、(  )。

4. 第6時の展開:瀬の主と向き合った太一の心の変化

めあて:瀬の主と向き合って、太一の心はどう変わったのだろう

学習活動 予想される子どもの反応 教師の手立て
1. 太一が何のために瀬にもぐり続けてきたのかを確かめる(5分) 「お父さんを破った瀬の主をとるため」「一人前の漁師になるため」 前時までの板書を掲示し、「本当の一人前の漁師」という言葉を押さえる
2. 瀬の主と向き合う場面を読み、太一の心が動いたところに線を引く(8分) 「殺されたがっている」「泣きそうになりながら」「ほほえみ」 一人で線を引く時間を確保する。線は3か所までに絞らせる
3. もりの刃先をどける前と後で、瀬の主が太一にとってどんな存在かを表にする(10分) 前:父を破った相手、とらなければいけない魚。後:おとう、海のいのち 表の枠を配り、根拠の言葉を書く欄を作る
4. グループで「何が太一の心を変えたのか」を話し合う(10分) 「与吉じいさの教え」「瀬の主の目がおだやかだった」「お父さんだと思えた」 前時までの三人の言葉の短冊を手元に置き、結び付けて考えさせる
5. 揺さぶり:「太一は弱かったから打てなかったのではないか」を考える(7分) 「自分でもりの刃先をどけている」「すんだ、だからほっとしている」「その後も村一番の漁師だった」 「打てなかった」と「打たなかった」の違いを板書で対比し、どちらの読みも根拠を確かめる
6. なぜ打たなかったのかを、根拠を挙げて短く書く(5分) 「瀬の主がおとうに思えて、海のいのちだと感じたから。『こう思うことによって』と書いてあるから」 個人の記述を本時の主な評価資料にする

まとめ(読みの一例):太一の心は、瀬の主をとって一人前になりたいという思いから、瀬の主をおとうや海のいのちとして受け止める思いへ変わった。だから太一はもりを打たなかった。

まとめは子どもの言葉で作り、ほかの説明が出た場合も根拠とともに板書に残す。

5. 発問集

段階 発問
導入 「太一は、何のために父の死んだ瀬にもぐり続けてきたのだろう」
導入 「『本当の一人前の漁師』とは、どんな漁師のことだと太一は考えていたのだろう」
中心 「瀬の主と向き合って、太一の心はどう変わったのだろう」
中心 「太一にとって瀬の主は、どんな存在に変わったのだろう」
中心 「何が、太一の心を変えたのだろう。前の場面のどの言葉とつながるだろう」
揺さぶり 「太一は、勝てないと思ってこわくなったから打たなかったのではないかな」
揺さぶり 「『殺さないですんだ』を『殺せなかった』に変えると、太一の気持ちはどう変わるだろう」
深める 「太一はなぜ、このことを生涯だれにも話さなかったのだろう」
深める 「父、与吉じいさ、母のうち、太一の選択にいちばん影響したのはだれだと思う? 本文の言葉で理由を言おう」

最後の発問は、影響の大きさを帯の長さで表させると、考えの違いが見えやすい。長さに正解はなく、根拠を言えることを大切にする。

6. 想定されるつまずきと手立て

つまずき 手立て
「こわくて打てなかった」と考え、その後の描写と合うかを確かめていない 「もりの刃先を足のほうへどけ」「殺さないですんだ」と合うかを問い直す。「殺せなかった」と言い換えた文と読み比べる
根拠を本文から示せない 線を引く、短冊に書き写す、の手順を入れ、根拠の言葉を必ず手元に残す
太一の気持ちと母の気持ちが混ざる 「だれの気持ちか」を確かめ、三人の欄は「太一への影響」でそろえる
出来事の説明で終わり、生き方に届かない 父と与吉じいさの漁の共通点と違いを確かめ、太一が二人から何を受け継ぎ、どんな漁師になったのかを問う
自分の生き方につなげるとき、本文から離れる 書き出しを本文の言葉にする型を使う。「どの言葉からそう考えたの?」と一つだけ問う

7. 評価規準(例)

観点 評価規準
知識・技能 比喩ひゆや呼びかけなどの表現の工夫に気付いている((1)ク)
思考・判断・表現 「読むこと」において、太一と父・与吉じいさ・母・瀬の主との関係や太一の心情の変化を、描写を基に捉えている(C(1)イ)。離れた場面の描写を結び付けて、太一の生き方や物語の全体像を想像している(C(1)エ)
主体的に学習に取り組む態度 友達の考えを聞いて本文に戻り、根拠を選び直すなど、自分の読みを見直しながら、太一の生き方から考えたことを伝え合おうとしている(話し合い後のノートの書き足しや、第8時の初読との比べ方で見る)

第6時の記述は、次のように見取る。口頭での説明や、短冊の選び方と並べ方も評価資料にしてよい。

  • 十分満足できる:太一の心情と行動のつながりを筋道立てて説明し、前の場面の描写との関係にも触れている。
  • おおむね満足できる:「おとう」「海のいのち」「殺さないですんだ」などの本文の言葉を挙げて、打たなかった理由を説明している。
  • 支援が必要:「かわいそうだったから」など感想だけで、本文の言葉が挙がっていない。線を引いた箇所から一つ選ばせ、「この言葉から何が分かる?」と問う。

8. 板書計画(第6時)

第6時の板書のイメージ。縦書きで、右端に日付と題名「海のいのち」、作者名、ピンクの枠のめあて「瀬の主と向き合って、太一の心はどう変わったのだろう」。その左に「もりをどける前」として、父を破った瀬の主、とらなければ本当の一人前の漁師になれない、と書き、根拠の短冊「泣きそうになりながら」を貼る。中央に左向きの大きな矢印と、心を変えたものとして与吉じいさの「千びきに一ぴき」、瀬の主のおだやかな目、母の「夜もねむれないよ」の短冊。その左に「どけた後」として、おとう、海のいのち、殺さないですんだ、と書き、根拠の短冊を貼る。左端の黄色の枠に、子どもの言葉で作るまとめの例

右:もりをどける前 中央:心を変えたもの 左:どけた後とまとめ
めあて「瀬の主と向き合って、太一の心はどう変わったのだろう」 大きな矢印(右から左へ) おとう(「おとう、ここにおられたのですか」)
父を破った瀬の主 与吉じいさ「千びきに一ぴき」 海のいのち(「海のいのちだと思えた」)
とらなければ本当の一人前の漁師になれない(「泣きそうになりながら」) 瀬の主のおだやかな目 殺さないですんだ(「すんだ」に赤線)
母「夜もねむれないよ」 まとめ(例):瀬の主の受け止め方が変わり、もりを打たなかった

根拠の言葉は短冊にして貼り、子どもの発言に合わせて、中央の「心を変えたもの」と線で結ぶ。前時までの三人の短冊を再利用すると、離れた場面を結び付ける動きが黒板の上に残る。

9. 特別支援の視点

この教材には「冷静だった」「泣きそうになりながら」のように心情を直接示す記述もあるが、もりの刃先をどける転換の理由は書かれておらず、行動や呼びかけから推し量る必要がある。さらに「父を破った相手から海のいのちへ」という抽象的な意味の変化を読み取る。どこでつまずくかは一人一人違うので、その子の困難の場所を見て手立てを選ぶ。

困難の例 手立て
書かれていない心情を推し量りにくい 「もりの刃先を足のほうへどけたときの太一の心」と場面を指定し、「うれしい」「落ち着いている」「こわい」などの言葉カードから近いものを選ばせる。いくつ選んでもよく、ほかの言葉でもよいことにして、選んだ理由を本文の言葉で言わせる
長い文章のどこを読んでいるか分からなくなる 本時はクライマックスの場面だけに絞る。線を引く箇所を教師が指定するカードも用意する
読み書きに負担がある 範読や音声教材を使う。根拠の言葉は書き写す代わりに短冊を貼ってよいことにする
抽象的な「海のいのち」が分かりにくい 「太一は瀬の主をどうしたか」「そのとき太一はどんな顔をしたか」と具体的な行動から順に問う。もりの先を下ろす動きを動作で確かめる

ワークシートは、自由記述の版と、穴埋め(「太一の心は( )から( )に変わった」など。ほかの書き方でもよい)や選択肢のある版を用意し、子どもが選べるようにする。評価では書いた量を問わず、太一の心が変わったことに本文の言葉を手がかりに気づけたかを見る。

10. 実践に向けたメモ

前時までの場面の要約を黒板の上の段に残しておくと、物語全体を見渡しながら考えられる。父・母・与吉じいさを並べる表には、それぞれ本文の引用カードを添える。

人物を並べる表は、書き始める前に「この表の主語はだれか」を子どもと確かめる。母の欄に「太一を心配する気持ち」と書くと母の気持ちになり、ほかの二人の欄(太一への影響)と主語がずれる。主語がそろっていれば、三人の影響を比べる最後の発問にもそのまま使える。

参考:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編(文部科学省)第3章第3節「第5学年及び第6学年の内容」C 読むこと (1)イ・エ・オ、(2)イ/加藤郁夫「物語教材『海の命(いのち)』の成立過程および教材の考察」『大和大学研究紀要』第9巻 教育学部編(2023)/堀江祐爾「比べ読みによる小学校国語科教材の教材研究の試み」『神戸女子大学文学部紀要』56巻(2023)