教材研究ラボ
明るい教室で、眼鏡をかけた女の子が、男性の先生が手に持つ小さな白いカードに顔を近づけて見ている。カードには切れ目のある輪がいくつか描かれ、先生の膝には巻き尺がかかっている

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講義まとめ講義まとめ・視覚障害の心理・生理・病理Ⅱ

「視力0.1」で終わらせない ― 視覚障害の心理・生理・病理Ⅱ:教育的視機能評価と医療・家庭との連携

視覚障害の心理・生理・病理Ⅱで学んだ、診断書の視力だけでは分からない教室での見え方を確かめる教育的視機能評価(板書の文字・最小可読視標・字づまりと字ひとつ・視野・まぶしさ)と、その結果を記録して医療・家庭とつなぐ方法をまとめる。

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目次
  1. 診断書の視力だけでは足りない
  2. 教育的視機能評価で確かめること
  3. 遠くを見る力:板書の文字で確かめる
  4. 近くを見る力:最小可読視標
  5. 字づまり視力と字ひとつ視力
  6. 見える範囲・まぶしさ・立体感
  7. 記録は「使える形」で残す
  8. 医療・家庭とつなぐ
  9. 教員として考えたいこと

視覚障害の心理・生理・病理Ⅱの講義では、見えにくい子どもの見え方を教育の立場から確かめる方法と、その結果を医療・家庭とどう共有するかを学んだ。テキストは小林秀之・澤田真弓 編著『特別支援教育のエッセンス 視覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)と、香川邦生・千田耕基 編著『小・中学校における視力の弱い子どもの学習支援』(教育出版)である。Ⅰで学んだ眼の仕組みや見えにくさの状態を、教室で使える情報に置き換えるのがⅡの中心だった。

診断書の視力だけでは足りない

眼科の診断書には、眼の病気の名前と、5mの距離で測った遠くの視力(遠見視力)だけが書かれていることがある。それだけでは、その子どもが黒板の文字をどこまで読めるのか、教科書を何cmの距離で読むのか、まぶしさに弱いのかは分からない。

医療の検査は、病気の診断や治療の効果を見ることを主な目的にしている。教室での学習に必要なのは、「どの距離で、どの大きさの文字や図が、どんな条件で見分けられるか」という情報だ。そこで、医療の情報を学校での観察で補う教育的視機能評価きょういくてきしきのうひょうかが必要になる。

教育的視機能評価きょういくてきしきのうひょうかは、担任一人で抱えるものではない。テキストでは、養護教諭、学校眼科医、特別支援教育コーディネーター、近くの盲学校(視覚特別支援学校)や弱視学級の教員と協力して進めることが勧められていた。

教育的視機能評価で確かめること

遠くを見る力:板書の文字で確かめる

テキストによると、矯正しても視力が0.3に届かない子どもは、一番前の席でも、板書でよく使われる5cm角くらいの文字が見えにくい。そこで、15cm角・10cm角・7.5cm角・5cm角の文字を黒板に書くか貼るかして、一番前の席から読めるかを確かめる方法が紹介されていた。教室の広さや文字の太さ、照明でも見え方は変わるので、確かめたときの席から黒板までの距離や、眼鏡・補助具を使ったかも書き留めておく。

黒板に大きさの違う白いカードが4枚、大きい順に並んで貼られ、それぞれに丸・三角・星・ハートの形が描かれている。男性の先生が一番小さいカードを指さし、前の方の席に座った眼鏡の男の子がそれを見ている

読めた大きさが分かれば、板書の文字をどこまで大きくすればよいか、手元に板書のプリントを用意したほうがよいか、単眼鏡を使う練習が必要かを決める手がかりになる。席の位置を前にするだけで解決すると考えず、一番前でも読めない大きさがあるという前提で確かめる。

近くを見る力:最小可読視標

教科書やプリントを読む力を見るには、30cmの距離で測る近くの視力(近見視力)を使う。ただ、ロービジョンの子どもは眼を近づけて読むことが多いので、30cmでの値だけでは足りない。

テキストでは、子どもが一番見やすい距離で、読める一番小さい視標(最小可読視標さいしょうかどくしひょう)を調べる方法が紹介されていた。記録には「何cmの距離で、どの大きさが読めたか」を両方書く。近づくほど見えるとは限らず、近づきすぎるとかえってぼやける子どももいるので、距離は子どもに任せて、その距離を測る。

最小可読視標さいしょうかどくしひょうが分かると、教材の文字の大きさの目安を計算できる。テキストの例では、近見視力0.1の子どもが30cmの距離で見分けられる線の幅は約0.9mmである。画数の多い「書」や「量」は、縦に線とすき間が16本並ぶので、0.9mm×16=14.4mm、およそ40ポイントが、30cmで見分けられる限界の大きさになる。その子どもが15cmまで近づいてもぼやけずに見えるなら、同じ見え方になる大きさは半分の20ポイントくらいになる。

最小可読視標から文字の大きさを決める流れの図。近見視力0.1・30cmの例で、①見分けられる線の幅は約0.9mm、②画数の多い漢字「書」「量」は線とすき間が16本並ぶので×16本分、③30cmで見分けられる限界の大きさは0.9mm×16=14.4mmで約40ポイント、④15cmまで近づいてもぼやけずに見えれば、同じ見え方になる大きさは半分の約20ポイント、⑤計算は理論上の目安で、テキストの例では22ポイント前後が読みやすかった。教科書やプリントの文章で読み誤り・速さ・疲れ方を見て調整する。ひらがなは線が7〜8本程度なので、字形によっては漢字より小さい文字でも読める

テキストでは、限界の値に少し余裕を見た22ポイント前後が、その例の子どもが実際に読みやすいと選んだ大きさと近かったとしていた。ただし、限界の大きさで一文字ずつ見分けられることと、文章をすらすら読み続けられることは違う。計算はあくまで理論上の目安であり、最後は実際の教科書やプリントの文章を読ませて、読み誤り・速さ・疲れ方を見て決める。テキストの説明では、ひらがなは線が7〜8本程度で漢字より少ないので、字形によっては漢字より小さい文字でも読める。

新しく習う漢字は、細かい部分まで見分けられないまま覚えると、形があいまいなまま定着してしまう。初めて出会う字は、細部まで確かめられる大きさではっきり示す。覚えたあとも、普段の学習では、その子どもが読み続けられる大きさを保つ。

字づまり視力と字ひとつ視力

視力の測り方には、たくさんの視標が並んだ表で測る字づまり視力と、視標を一つずつ見せて測る字ひとつ視力がある。テキストでは、小学校3年生(8歳)くらいまでは字ひとつ視力も測るよう勧めていた。

見えにくい子どもの中には、視標が一つだけのときのほうがよい値が出る子どもがいる。周りに文字が並ぶと見分けにくくなるためで、この差が大きいときは、文字がぎっしり並んだプリントや教科書でも読みにくさが出ていないかを確かめる。行間を空ける、読む行だけが見える枠(タイポスコープ)を使う、といった手立てを試す手がかりになる。

見える範囲・まぶしさ・立体感

視力のほかに、次のことも確かめる。

確かめること 教室での手がかり
見える範囲(視野) 視力とは別に、見える範囲や欠けている部分がある。中心が見えにくいのか周りが見えにくいのかで、困る場面は違う。医療の視野検査の結果と、教材を見るときや移動するときの様子を合わせて、座席や提示する位置を考える。また、片眼の見え方がとても弱いと、本人は両眼で見ているつもりでも、弱い側からの合図や物に気づきにくいことがある
まぶしさ(羞明しゅうめい) 全色盲ぜんしきもう・無虹彩むこうさい・白子眼などではまぶしさに弱く、遮光眼鏡を使うことがある。窓からの光に加え、白い紙の照り返しでも見えにくくなる
立体感・距離感 片眼で見ていると、速く飛んでくるボールの位置がつかみにくい。球技を嫌がる理由が、やる気ではなく見え方にある場合がある

記録は「使える形」で残す

評価の結果は、次にその子どもを担当する教員や、家庭・医療が使える形で記録する。テキストで強調されていたのは、数値に条件を添えて書くことだった。

「視力0.1」と書くより、「15cmの距離でこの大きさの文字が読める」と書くほうが、次の授業で使える。たとえば次のような形で残しておくと、教材を作るときや、学年が上がって担任が替わるときにそのまま役立つ。

項目 記録の例
日付・場面 6月、国語の教科書の音読
教材と文字 拡大したプリント、ゴシック体22ポイント
距離・補助具 目から約15cm、眼鏡あり、書見台を使用
照明 窓から離れた席、手元は卓上ライト
読んだ様子 1ページを読み誤りなく読めた。10分ほどで眼をこすり始めた
本人の感想 「この大きさなら楽」

見え方は成長や病気の進行で変わることがある。記録には測った日付を入れ、学期ごとなど時期を決めて確かめ直す。

医療・家庭とつなぐ

医療・家庭・学校は、それぞれ違う場面のその子どもを見ている。医療は病気と眼の状態を、家庭は生活の中での見え方や本人の気持ちを、学校は学習場面での見え方を知っている。講義では、この情報を相手が使える言葉に置き換えて、互いに行き来させることが大切だと学んだ。学校や医療から家庭へも、授業で試した支援とその結果、検査の結果や家庭での配慮を返していく。

医療・家庭・学校の情報のやりとりの図。医療(眼科医・視能訓練士)から学校へは、疾患の特徴・進行の見通し・避けたい運動・まぶしさへの配慮。学校から医療へは、教室での見え方・困っている場面・補助具の使い方。家庭(本人・保護者)と医療の間では、家庭から家での様子・気になる症状を伝え、医療から検査の結果・家庭での配慮を返す。家庭と学校の間では、家庭から家での見え方・本人の気持ちを伝え、学校から授業で試した支援とその結果を返す。中央に、共通の目標を立て、役割を分けて定期的に見直すとある。医療の言葉は教室の場面に、教室の様子は医療が判断に使える形に「翻訳」して伝える

学校から医療へは、「板書の5cm角の文字は一番前の席でも読めない」「午後になると眼を細めることが増える」のように、具体的な場面で伝える。医療からは、病気の特徴、進行の見通し、避けたほうがよい運動(網膜剥離の危険がある場合の激しい運動など)、まぶしさへの配慮などを聞く。受診の際に保護者に質問を託すこともあるので、何を聞きたいかを短く書いて渡すと伝わりやすい。医療の情報や見え方の記録を誰に渡すかは、本人・保護者と共有先や内容を確かめてから、支援に必要な範囲で共有する。

情報を集めるだけでは支援は動かない。「今学期は、教科書を自分で読める大きさの文字で用意する」のような共通の目標を立て、誰が何をするかを分け、結果を共有して見直す。本人の気持ちも欠かせない情報である。補助具を人前で使うのを嫌がる子どももいるので、何を使いたいか、どこで困っているかを本人から聞き、目標に反映させる。

教員として考えたいこと

診断書の視力の数字から、教室での見え方は分からない。そう知っていれば、確かめる行動につながる。黒板に大きさの違う文字を貼って一番前の席から読ませる、教科書を何cmで読んでいるかを測る、といったことは、特別な道具がなくても始められる。

確かめた結果から教材を変えたら、その効果も確かめる。たとえば板書を手元のプリントにして渡したら、授業の中で本人が必要な情報を得られたか、写す速さや疲れ方がどう変わったかを本人に聞き、記録に書き足す。

参考:小林秀之・澤田真弓 編著『特別支援教育のエッセンス 視覚障害教育の基本と実践』(慶應義塾大学出版会、2023年)/香川邦生・千田耕基 編著『小・中学校における視力の弱い子どもの学習支援 ― 通常の学級を担当される先生方のために』(教育出版)