教材研究ラボ
朝の教室の入り口で、男性の先生がランドセルを背負って登校してきた子どもたちを一人ずつ笑顔で迎えている。少し恥ずかしそうな男の子に身をかがめて声をかけ、女の子が元気に手を振っている

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叱って直すより、育つのを支える ― 生徒・進路指導論:生徒指導の目的と2軸3類4層、いじめへの対応、キャリア教育

生徒・進路指導論の講義で学んだ、生徒指導提要(2022年改訂)による生徒指導の定義・目的と、育成を目指す自己指導能力、実践上の四つの視点、2軸3類4層の構造、いじめを例にした層ごとの取組、小学校のキャリア教育で育てる基礎的・汎用的能力とキャリア・パスポートをまとめる。

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目次
  1. 生徒指導とは
  2. 定義と目的
  3. 実践上の四つの視点
  4. 2軸3類4層の構造
  5. いじめを例にすると
  6. 生徒指導の方法
  7. キャリア教育
  8. 小学校のキャリア教育
  9. キャリア・パスポート
  10. 教員として考えたいこと

生徒・進路指導論の講義では、生徒指導とキャリア教育の考え方を学んだ。中心になった資料は、文部科学省の『生徒指導提要』(2022年12月改訂)と『小学校キャリア教育の手引き』(2022年3月)である。生徒指導という言葉から、問題行動を叱って直す場面を思い浮かべていたが、提要の示す生徒指導はもっと広い。

生徒指導とは

定義と目的

提要は、生徒指導を、児童生徒が社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動だと定義している。課題に対応するための指導や援助は、必要に応じて行うものと位置づけられている。

目的は、一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長、社会的な資質・能力の発達を支えるとともに、自己の幸福追求と、社会に受け入れられる自己実現を支えることである。ここでいう「発達」には、心理面、学習面、社会面、進路面、健康面が含まれる。

その目的のために子どもに育てたいのが自己指導能力じこしどうのうりょくである。自分を深く理解したうえで、「何をしたいのか」「何をするべきか」を主体的に考えて目標を選び、他者の主体性も尊重しながら、自分で行動を決めて実行する力をいう。

生徒指導は、時間割に「生徒指導」という時間があるわけではない。授業、休み時間、給食、掃除、行事など、学校の全ての教育活動の中で働く「機能」である。生徒指導は、問題が起きたときに限らず、毎日の挨拶や声かけ、授業の中で、全ての子どもの成長を支える働きである。

実践上の四つの視点

提要は、自己指導能力じこしどうのうりょくを育てるうえで意識したい視点として、次の四つを挙げている。

視点 内容 学級での例
自己存在感の感受 集団の中に個が埋もれず、「自分も一人の人間として大切にされている」と実感できる 朝の会で全員と一言ずつ言葉を交わす
共感的な人間関係の育成 選べない出会いから始まる学級を、認め合い・励まし合い・支え合える集団にする 間違いを笑わない約束を学級で共有する
自己決定の場の提供 自分で考え、選び、決め、発表する体験を重ねる 授業で自分の考えを書いて発表する場面を作る
安全・安心な風土の醸成 一人一人が尊重され、安心して学べる。人格や人権をおとしめる言動、いじめ、暴力は許さない からかいをその場で止め、言われた子の安全と気持ちを確かめる。学級全体への指導は、本人の意向を踏まえ、個人が特定されないように行う

2軸3類4層の構造

提要は、生徒指導を時間軸・課題の重さ・対象の範囲から整理している。これが2軸3類4層である。

生徒指導の2軸3類4層の図。4層は上から、第1層発達支持的生徒指導(全ての児童生徒。挨拶・声かけ・励まし・対話、授業や行事を通した働きかけ。全ての層の土台になる)、第2層課題未然防止教育(全ての児童生徒。いじめ防止・SOSの出し方・情報モラルの教育など)、第3層課題早期発見対応(前兆が見られる一部の児童生徒。変化に早く気づき対応)、第4層困難課題対応的生徒指導(特定の児童生徒。校内外のチームで)。左の2軸では、第1・2層が常態的・先行的(プロアクティブ)、第3・4層が即応的・継続的(リアクティブ)。第1・2層は全員が対象なので同じ幅で、第3・4層から上の層へ、対応で見えたことを返す矢印がある。右の3類では、第1層が発達支持的、第2・3層が課題予防的、第4層が困難課題対応的。下に、第1・2層の取組を見直すことが課題の未然防止・再発防止につながり、第3・4層の対応から見えたことが、全員への発達支持的生徒指導に返ってくる(円環的な関係)、とある

2軸は時間軸で、先手を打つ常態的・先行的(プロアクティブ)な生徒指導と、課題の予兆や初期の状態を捉えて対応し、深刻な課題には継続して指導・援助する即応的・継続的(リアクティブ)な生徒指導に分かれる。3類は、全ての子どもの発達を支える発達支持的生徒指導、課題を防ぐ課題予防的生徒指導、深刻な課題に対応する困難課題対応的生徒指導である。4層は、課題予防的生徒指導を、全員を対象にした課題未然防止教育と、一部の子どもを対象にした課題早期発見対応に分けたものになる。子どもを四つに分類するのではなく、一人の子どもが第1層の支援を受けながら、第3層の対応も受けるというように、支援は重なり合う。

提要は、生徒指導というと「起きてから対応する」イメージがまだ強いと指摘している。そのうえで、これからは特にプロアクティブな生徒指導の工夫が必要だとしている。

いじめを例にすると

いじめ防止対策推進法は、いじめを、一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)で、対象になった児童等が心身の苦痛を感じているもの、と定める。けんかやふざけ合いに見えても、された側が苦痛を感じていれば、いじめとして受け止めて対応する。

層 いじめに関わる取組の例
第1層 発達支持的 人を傷つけない言葉の使い方を学ぶ、互いのよさを認め合う学級づくり
第2層 課題未然防止教育 いじめ防止の授業、情報モラル教育、困ったときの相談先の確認
第3層 課題早期発見対応 いじめアンケート、表情や欠席・遅刻の変化に気づく。疑いの段階で、被害を受けている子どもの安全を確保し、学校のいじめ対策の組織に報告・共有して、組織で事実確認と初期対応を行う
第4層 困難課題対応的 深刻な事案に、校内の組織と保護者、必要に応じて関係機関が連携して、継続的に指導・援助する

提要は、SNSによるいじめのように教職員から見えにくいものもあるので、全員を対象にした第1・2層の取組がいっそう大切になるとしている。そして、起きた事案を一人の子どもの問題にとどめず、学級や学校全体の課題として捉え直すと、全員に通じる指導のあり方を考えられる。図の下に書いた円環的な関係である。

生徒指導の方法

提要は、生徒指導を進める方法として、児童生徒理解、集団指導と個別指導、ガイダンスとカウンセリング、チーム支援による組織的対応を挙げている。ガイダンスは集団に向けて必要な指導や援助を行うこと、カウンセリングは一人一人の実態や課題に応じて関わることをいう。たとえば、学級全員に困ったときの相談先を知らせる(ガイダンス)一方で、相談しにくそうな子どもの事情は個別に聴く(カウンセリング)、というように組み合わせる。

中でも土台になるのが児童生徒理解である。子どもを取り違えたまま指導すれば、的外れになり、子どもを傷つけることもある。気になったことは、見た事実と自分の解釈を分けて記録する。一度の出来事で子どもの評価を決めず、前の担任や養護教諭、保護者からの情報も重ねて見る。

集団指導と個別指導は車の両輪である。個別の配慮が「あの子だけ特別」に見えないよう、必要な支援が人によって違うのは当たり前だという雰囲気を、学級全体で作っておく。

キャリア教育

小学校のキャリア教育

提要は、生徒指導とキャリア教育は深く関わるとしている。どちらも子どもの社会的な自己実現を支え、自己理解や主体的な選択・決定を育てる点でも重なる。科目名にある進路指導も、キャリア教育の中に含まれるものとして位置づけられている。

キャリア教育は、一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育と定義されている(中央教育審議会答申、2011年)。ここでいうキャリアは職業や職歴に限らず、子ども、家族の一員、地域の一員など、生涯の様々な役割を果たしながら、自分と社会との関係を築いていく積み重ねを指す。キャリア発達は、社会の中で役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程である。小学校の時期は、進路の探索や選択の基盤を作る時期にあたる。特定の職業に向けて準備するより、今の学びや生活を自分の生き方につないでいく土台を作る時期である。

そのために育てる力が、分野や職種を問わず社会的自立に必要とされる「基礎的・汎用的能力」である。

キャリア教育で育てる「基礎的・汎用的能力」の図。人間関係形成・社会形成能力(相手の考えを聞き、自分の考えを伝える。集団の中で役割を果たし、協力する。例:係や当番を最後までやり遂げる)、自己理解・自己管理能力(自分のよさや苦手に気づき、目標に向けて自分の行動を調整する。例:友達から聞いた自分のよさを書き留める)、課題対応能力(課題を見つけ、計画を立て、やり遂げて振り返り、次に生かす。例:学級会で決めたことの実践を振り返る)、キャリアプランニング能力(学ぶことや働くことの意味を考え、将来への見通しをもつ。例:家の仕事や地域の人の仕事から考える)の四つが並び、中央に互いに関連する、とある。下に、四つはきれいに分けられるものではなく、学校ごとに重点を決めて育てる、とある

手引きは、四つの能力は互いに関連し合っていて、はっきり分けられるものではないとしている。全てを同じ重みで扱うより、学校や子どもの実態に合わせて、どの力に重点を置くかを決めて育てる。

キャリア教育は、職業調べや「将来の夢」を書く活動に限られない。係や当番の仕事、学級会で決めたことの実践、教科で学んだことを生活に生かす場面など、普段の教育活動の中で育てていく。ただし、経験させるだけで力が育つわけではない。たとえば、係活動で「友達と協力して進める」を目標にし、実践したあと学級活動で自分の成長と次の目標を考える、というように、育てたい力をはっきりさせ、計画・実践・振り返りを結び付ける。小学校では、特別活動の学級活動(3)「一人一人のキャリア形成と自己実現」が、その要に位置づけられている。

キャリア・パスポート

学習指導要領では、子どもが活動を記録して蓄積する教材を活用することが示されている。その一つが「キャリア・パスポート」である。

午後の教室で、5・6年生くらいの子どもたちが、それぞれ自分のファイルを開いて、1年間を振り返りながら書いたり絵をかいたりしている。男性の先生が女の子の横にしゃがみ、一緒にファイルをのぞいて笑顔で話している

手引きによると、キャリア・パスポートは、子どもが自分で記録し、学期や学年、入学から卒業までの学びを見通したり振り返ったりして、将来への展望をもてるようにするものである。教科の学習に加えて、学校行事や児童会活動などの教科外の活動、地域や家庭での取組も含めて振り返る。学年や学校段階を越えて引き継げるよう、各学年での蓄積は数ページにまとめる。日々のワークシートは綴じ込まず、それを基にして中長期の振り返りと見通しを書く。

大切にされているのが、大人の関わりである。家族や教師が子どもの記録を読み、対話することで、自分が役に立てたという実感(自己有用感)や、自分の変化への気づきにつなげる。

教員として考えたいこと

生徒指導もキャリア教育も、計画的な授業や指導に加えて、毎日の学校生活の中で積み重ねるものだと学んだ。提要が第1層に挙げる挨拶、声かけ、励まし、対話は、どれも担任が明日からできることである。

朝、教室の入り口で子どもを迎えるときに、名前を呼んで一言添える。その日の表情の違いに気づけば、それが第3層の早期発見にもつながる。

参考:文部科学省『生徒指導提要』(2022年12月改訂)第1章/文部科学省『小学校キャリア教育の手引き』(2022年3月)第1章/いじめ防止対策推進法 第2条