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講義まとめ発達障害の判定とその教育的対応Ⅰ発達障害自立活動:環境の把握(2)

講義まとめ講義まとめ・発達障害の判定とその教育的対応Ⅰ

検査は「できること」を探す道具 ― 発達障害の判定と教育的対応:心理検査の仕組み、主な検査、結果の読み方と生かし方

発達障害の判定とその教育的対応Ⅰで学んだ、心理検査の標準化・信頼性・妥当性、偏差IQの意味、知能検査の歩み、WISC・KABC-II・DN-CASなど主な検査の特徴、個人内差から支援を考える結果の読み方と、検査を授業や配慮に生かす流れをまとめる。

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目次
  1. 障害名で、支援の方法は決まらない
  2. 心理検査の仕組み
  3. 標準化・信頼性・妥当性
  4. IQは、同じ年齢の中での位置
  5. 知能検査の歩み
  6. 主な検査とその特徴
  7. 結果をどう読むか
  8. 個人内差と、得意なこと
  9. 点数より、間違え方を見る
  10. 結果の扱いと伝え方
  11. 検査を支援につなげる
  12. 事例から
  13. 検査はくり返しの中の一回
  14. 教員として考えたいこと

発達障害の判定とその教育的対応Ⅰの講義では、発達障害のある子どもを理解するための心理検査の仕組みと、その結果を教育にどう生かすかを学んだ。テキストは安住ゆう子『改訂新版 子どもの発達が気になるときに読む心理検査入門』(合同出版)で、講義では知能検査の歴史や統計の考え方も扱った。

発達障害の定義や、感覚・認知の個人差、支援の考え方は、発達障害教育総論の講義のまとめに書いた。

障害名で、支援の方法は決まらない

講義で繰り返し言われたのは、障害名で支援の方法は決まらない、ということだった。同じ診断名でも一人一人のつまずき方は違い、同じ子でも時期によって必要な支援は変わる。だから、何ができて何が難しいのか、次に取り組む課題は何かを、一人一人について確かめる必要がある。これをアセスメント(実態把握)という。

心理検査は、アセスメントの一部である。テキストは、検査の結果に加えて、日常の行動観察、本人や保護者との面接、生育歴などを合わせて総合的に評価することを心理アセスメントと呼んでいた。また、検査の結果だけで診断名が決まることはなく、診断は医師が生育歴や行動の様子、検査結果などを総合して行う。検査の役割は、子どもの得意と苦手を知り、支援の方法を考える手がかりを得ることにある。

心理検査の仕組み

標準化・信頼性・妥当性

教育や医療で使われる心理検査は、テレビの「心理テスト」とは作り方が違う。テキストと講義では、次の三つが挙げられていた。

用語 意味 たとえ
標準化 多くの子どもに実際に検査をして得たデータから、結果を比べる基準を作る。教示の言い方や制限時間など、実施の手順もそろえる 全国の同じ年齢の子の記録と比べられる体力テスト
信頼性 同じ力を測ったとき、どの程度一貫した結果が得られるか。それでも体調や実施の条件で結果は多少変わる 測るたびのばらつきが小さい体重計
妥当性 測りたいものを正しく測れている 長さは定規、角度は分度器で測る

講義では、「知能」は直接見ることのできない、考え方として作られた概念であり、何を知能と考えるかによって検査の中身も時代とともに変わってきた、という説明もあった。

IQは、同じ年齢の中での位置

知能検査の結果で示されるIQ(知能指数)は、同じ年齢の集団の中で、その子がどのあたりに位置するかを表す数値である。現在の主な知能検査は、平均を100、標準偏差を15とする偏差IQで示す。得点が正規分布に従うと考えると、100の前後に多くの子が集まり、85から115の間に約68%、70から130の間に約95%が入る。

偏差IQの分布を示した図。左右対称の山形の曲線で、真ん中の100がもっとも高い。85から115の間に全体の約68パーセント、70から130の間に約95パーセントが入ることが帯で示されている。下に、正規分布を仮定した概念図であること、IQは同じ年齢の集団の中での位置を表すことが添えられている

テキストは、数値の高さが人としての価値を決めるものではないこと、測定には誤差があるので1〜2点の違いにこだわらず幅をもって捉えること、全体の数値に加えて能力の間のバランスを見ることを挙げていた。また、検査の課題に慣れれば得点が上がることがあるので、得点が上がっただけで学ぶ力が伸びたとは判断できない。講義でも、IQを上げることより学力を上げることが大切だと強調された。

知能検査の歩み

知能を測る研究は19世紀後半のイギリスで始まったが、その背景には、優れた能力は遺伝するという優生学の考え方があった。講義では、知能検査が人を選び分ける道具として使われてきた歴史も、知っておく必要があると説明された。

時期 できごと 何が変わったか
1905年 フランスのビネーが、シモンとともに最初の知能検査を作る 義務教育の中で、特別な教育が必要な子どもを見つけるという、教育からの求めに応えた
20世紀前半 アメリカのターマンがビネーの検査を改訂し、IQを使って結果を示す 知能を数値で表すことが広まった
1939年 ウェクスラーが、言語性と動作性に分けてIQを示す検査を作る(子ども用のWISCは1949年) 一人の中の得意・不得意(個人内差)を検討しやすい構成になった
20世紀後半 カウフマン夫妻のK-ABCが、情報を順番に処理する力(継次処理けいじしょり)と全体をまとめて捉える力(同時処理)を測る 「何を知っているか」に加えて「どのように学ぶか」が見えるようになった
現在 WISCの新しい版などで、いくつもの指標から認知の特徴を捉える 単一の数値から、認知の凸凹を支援に生かす方向へ

主な検査とその特徴

テキストで紹介されていた主な検査は次のとおりである。対象年齢は、文部科学省の資料とテキストに基づく。

検査 対象年齢 特徴
WISC(ウィスク) 5歳〜16歳11か月 代表的な知能検査。テキストの扱うWISC-Ⅳは、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4つの指標で示す。現在の日本版WISC-Ⅴは、言語理解・視空間・流動性推理・ワーキングメモリー・処理速度の5つの指標になっている
田中ビネー知能検査 2歳〜成人(テキストの扱う田中ビネーⅤ) ビネーの検査を基に日本で作られた。Ⅴでは、2〜13歳は年齢ごとの問題から精神年齢とIQを求め、14歳以上は原則として偏差知能指数で示す。課題が多様で、幼児期によく使われる。2024年に新しい版(Ⅵ)が出ている
KABC-Ⅱ 2歳6か月〜18歳11か月 認知の力と、それを使って身に付けた知識や学力(習得度)を分けて測る。読み書きや計算のつまずきを考えるときに役立つ
DN-CAS(ディーエヌキャス) 5歳〜17歳11か月 計画(プランニング)・注意・同時処理・継次処理けいじしょりの4つの面から、考える過程を捉える
新版K式発達検査 0歳〜成人 「姿勢・運動」「認知・適応」「言語・社会」の3つの領域から、乳幼児期の発達を見る
絵画語い発達検査(PVT-R) 3歳〜12歳3か月 4つの絵から言われた言葉に合う絵を選ぶ。短時間で語彙の理解を測れる

一つの検査で分かることには限りがあるので、目的に合わせて複数の検査を組み合わせることもある(テストバッテリー)。

結果をどう読むか

個人内差と、得意なこと

検査の結果は、全体の水準、同じ年齢の子との比較(個人間差)、その子の中での得意と苦手の差(個人内差)を合わせて読む。講義が特に強調したのは個人内差である。ただし、本人の中で高い力でも、同年齢と比べると支援が必要な場合がある。小さな差には測定の誤差も含まれるので、差の意味は検査をした人に確かめる。講義では、偏りがあるということは、得意なところがあるということでもある、と説明された。苦手なところだけを繰り返し練習させるより、得意なところを生かして学ぶ方法を考え、苦手な部分は道具や配慮で補う。眼鏡や車いす、電卓のような支えがあれば、全体の学びは進む。

講義では、検査の結果を体力テストにたとえる話もあった。体力テストの記録がよい子は野球が上手なことが多いが、足が遅くても野球が上手な子はいる。知能検査の結果も、学習の様子をそのまま決めるものではない。

点数より、間違え方を見る

検査の数値だけでは、支援の方法は見えてこない。検査そのものはマニュアルの手順どおりに行うが、どの問題で、どのように間違えたかには、支援の手がかりが多く含まれている。どれくらい手助けがあればできるかは、授業の課題などで別に確かめる。

点数より、どう間違えたかに支援の手がかりがある。

たとえば授業で、図形の問題に補助線を引いてもらえば解けた子については、「補助線がないと分からない」と捉えるより、「補助線があれば分かる」と捉えると、授業での手立てがすぐに見えてくる。講義では、検査で示される数値は、その日の条件で発揮できた力であって、その子の力の上限ではないとも説明された。

結果の扱いと伝え方

検査の結果は、秘匿性ひとくせいの高い個人情報である。検査の目的や内容を保護者に説明し、同意を得たうえで実施する。本人にも、年齢に応じて「得意なことや苦手なことが分かる」などと説明する。結果を学校と共有すれば特性に合った配慮を考えやすくなるが、共有するときは、目的と範囲を本人・保護者に説明して同意を得る。

結果を伝えるときは、伝える順番にも気を配る。伝え方の一例として、講義では、「国語は得意だが算数は苦手」と伝えるより、「算数は苦手だが国語は得意」と、苦手を先に、得意を後に伝えるほうが前向きに受け止めやすいという話があった。そのうえで、困っている場面と、学校がどんな支援をするかを具体的に伝え、相手の受け止めを確かめる。

検査を支援につなげる

事例から

テキストの第3章は、検査の結果をどのように支援に結び付けたかの事例を挙げていた。学校の年齢の事例からいくつかを抜き出し、要約する。どの事例も、検査の結果に加えて、家庭や学校での様子を聞き取って支援を考えている。

学年 困っていたこと 検査で見えた特徴 支援
小1 読み書きのつまずき 耳から聞いたことを覚えておくのが苦手(ワーキングメモリー) 絵などのイメージを使って覚える。音読の範囲を限る
小3 家でも学校でも行動が1、2テンポ遅れがちで、話を聞きもらしたり忘れ物をしたりする 言葉の理解や推理する力は高いが、聞いたことを覚えておく力(ワーキングメモリー)と、見た情報を素早く処理する力(処理速度)が低い 怠けではないことを周りが理解する。作業を一つずつに区切り、着替えなどはタイマーで時間を決めて挑戦する
小6 学習への意欲が低い 複数の情報をまとめて考えるのは苦手だが、順番に処理するのは得意 興味のある電車と結び付けた教材を使い、段階を細かく区切って指導する
中1 読み書きが難しく、テストが時間内に終わらない 順番に処理したり覚えたりするのは苦手だが、全体を捉えるのは得意 テストの時間延長や別室での受験など、合理的配慮を受けて力を発揮できるようにする

支援のイメージ。小学3年生くらいの女の子が教室の机で、机の端に置いた丸いタイマーを確かめながら、目の前の一枚のカードの課題に取り組んでいる。机の上には、ほかのカードは出ていない。そばで男性の先生がしゃがみ、次のカードを手に持って待っている

小3の事例のように、検査の結果と日常の様子を合わせて見ると、「急ぎなさい」「忘れ物をしないように」と声をかけ続ける代わりに、作業を一つずつに区切る、時間を目で見えるようにする、といった具体的な手立てを考えられるようになる。タイマーは急かされる負担になる子もいるので、使うかどうかや使い方は本人と相談して決める。

検査はくり返しの中の一回

講義では、検査を生かす流れを次のように整理していた。

検査を支援に生かす流れを示した図。アセスメント(行動観察、面接、生育歴と、必要に応じて検査で実態をつかむ)から、計画(個別の指導計画を作る)、実行(授業や支援を行う)、再評価(子どもの変化を見て計画を見直す)へと矢印が進み、再びアセスメントに戻る循環になっている。中央に、検査は手段であって目的ではないと書かれている

検査をすること自体が目的になってはいけない。知能検査は1時間から1時間半ほどかかり、子どもにとって負担も大きい。何のために、誰のために検査をするのかを明確にしてから実施する。支援がうまくいっているかは、日々の授業の中で確かめる。検査を受け直すかどうかや時期は、検査の種類や目的に応じて専門家と相談して決める。テキストは、発達の変化を見るために受け直す場合は1〜2年ほど間隔をあけるとしていた。

教員として考えたいこと

学級の子のつまずきが気になったら、まずどんな課題や場面で困っているかを記録し、授業の中でできる工夫を試しながら、特別支援教育コーディネーターなど校内の先生と相談する。検査の結果を待たずに始められる支援は多い。検査を勧めるのは、その子にラベルを貼るためではなく、教え方の手がかりを得るためである。検査の実施と専門的な解釈は、訓練を受けた人が行う。保護者には、子どもの得意なことも合わせて伝え、検査で何が分かり、それを学校でどう生かしたいのかを具体的に話す。検査の報告書を受け取ったら、数値の高い低いより、得意な力と苦手な力の差、間違え方、手助けがあればできたことに目を向け、授業での手立てを一つ決めて試す。

参考:安住ゆう子『改訂新版 子どもの発達が気になるときに読む心理検査入門』(合同出版)/文部科学省「特異な才能のある児童・生徒の認知等の特性を把握するツール(例)」(2024年)