
講義まとめ病弱教育指導法病弱自立活動:健康の保持(2)自立活動:健康の保持(5)自立活動:心理的な安定(1)自立活動:心理的な安定(3)
講義まとめ講義まとめ・病弱教育指導法治療と学びを両立させる ― 病弱教育の指導法:各教科の6つの配慮、体験の工夫、自立活動、センター的機能
病弱教育指導法で学んだ、学習指導要領が示す病弱者への各教科の指導の6つの配慮事項、直接できない体験を補う工夫、病状に合わせて組み替える自立活動、進路指導、地域の学校を支える特別支援学校(病弱)のセンター的機能をまとめる。
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目次
病弱教育指導法の講義では、病気のために治療や生活の制限を受けながら学ぶ子どもに、各教科と自立活動をどう指導するか、地域の学校をどう支えるかを学んだ。テキストは国立特別支援教育総合研究所『特別支援教育の基礎・基本』の「病弱・身体虚弱」の章で、学習指導要領とその解説、中央教育審議会の答申も合わせて読んだ。
病気の子どもの理解や学びの場、学習の空白を埋める工夫は、病弱の心理・生理・病理の講義のまとめに書いた。
対象となる子どもが変わってきている
特別支援学校(病弱)で学ぶ子どもの病気は、以前は気管支喘息や腎炎、ネフローゼ症候群が多かったが、いまは精神疾患や心身症の子どもがもっとも多いとテキストは述べている。テキストが引く全国病弱虚弱教育研究連盟の病類調査(2020年の資料)では、精神疾患・心身症に続いて、てんかんや筋ジストロフィーなどの脳・神経・筋の病気、小児がんが多かった。テキストは、精神疾患・心身症の区分に入る病気の例として、うつ病、起立性調節障害、適応障害、不安障害、摂食障害などを挙げている。
医療の進歩で入院期間は短くなり、在籍する期間も短く、年度の途中に転入してくる子どもが多い。病状が変わりやすく、心理的にも不安定になりやすい。指導の目標や内容を途中で見直すことが多くなり、実態をつかむところから評価までの流れを組み立てにくい、とテキストは指摘している。
各教科の指導で配慮すること
特別支援学校小学部・中学部学習指導要領は、病弱者である児童生徒に各教科を指導するときの配慮事項を六つ示している。表の左の列は、その要旨である。
| 配慮事項(要旨) | 学習指導要領解説が挙げる例 |
|---|---|
| (1) 学習状況や病気の状態、授業時数の制約等に応じて指導内容を適切に精選し、基礎的・基本的な事項に重点を置く。指導内容の連続性に配慮し、各教科等相互の関連を図る | 理科で水溶液を扱うときに算数の割合と関連させる。社会科の地名を国語の漢字の読み書きと関連させる。前籍校と連絡を取り、学年をまたぐ内容のつながりを確かめる |
| (2) 健康状態の維持や管理、改善に関する内容は、自己理解を深めながら学びに向かう力を高めるために、自立活動の指導と密接な関連を保つ | 体育の「病気の予防」、家庭科の「栄養を考えた食事」などを、自立活動の「病気の状態の理解と生活管理」と関連させる |
| (3) 体験的な活動を伴う内容は、間接体験や疑似体験、仮想体験等を取り入れて指導方法を工夫する | アレルギーの原因になる材料を替えて調理実習をする。外に出られない子は窓辺のプランターで植物を観察する |
| (4) 身体活動の制限や認知の特性、学習環境等に応じて、教材・教具や補助用具を工夫し、コンピュータ等の情報機器を有効に活用する | スイッチや視線入力装置、読み上げ機能。教室に登校できないときは、テレビ会議システムで病室から授業に参加する |
| (5) 学習活動が負担過重となる、又は必要以上に制限することがないようにする | 学校生活管理指導表を使い、できる活動を保護者と一緒に考える |
| (6) 姿勢の保持や長時間の学習活動が困難な子は、姿勢の変換や適切な休養の確保に留意する | 無理をして座り続ける子に声をかけ、自分から休憩を取ったり姿勢を変えたりできるようにする |
(1)の精選は、大事な内容を省いてよいという意味にはならない。解説は、各教科の内容は特に示す場合を除き取り扱うとしたうえで、重要な指導内容が欠けないように配慮し、指導の時期や方法、時間配分を考えること、教科どうしの不必要な重複を避けることを挙げている。
(5)は、守ることと広げることの両方を求める。活動を制限されている子どもに重い物を運ばせて体調を悪くしてはいけない。一方で、心配だからと必要以上に活動を止めると、体験の機会がさらに減る。どこまでできるかは学校生活管理指導表や主治医の情報で確かめ、病状が日々変わる子どもについては、医療との連携で最新の情報を得ながら判断する。
(6)の例にあるように、休憩を教師が与えるだけで終わらせず、子どもが自分の体調の変化に気づき、自分から休みたいと言えるようにすることも指導の目標になる。この力は、自立活動の「健康の保持」の指導とつながっている。
体験を形を変えて届ける
(3)の配慮は、病弱教育の指導の工夫がよく表れる部分である。解説は、まず材料や場所を工夫して、できる限り子どもが実際に見て体験できるようにすることを挙げ、そのうえで仮想体験・疑似体験・間接体験の例を挙げる。
| 体験の形 | 例 |
|---|---|
| 工夫した直接体験 | アレルギーの原因にならない材料で調理実習をする。窓辺やベランダに置いたプランターで植物を観察する |
| 仮想体験 | 知らない場所に強い不安がある子が、見学先をVRの機器で事前に体験してから社会見学に行く |
| 疑似体験 | 火を使う実験を、タブレット端末のシミュレーションアプリで操作する。体感型のアプリでスポーツを体験する |
| 間接体験 | Webサイトで実験の様子を見る。社会科の地域調査で、テレビ会議システムを使って地域の人から話を聞く |
仮想体験・疑似体験・間接体験は、決まった順に使うものではない。VRの例は、本物の見学に向かうための準備として使っている。火を使う実験のように直接体験が難しい内容では、疑似体験や間接体験で補う。どれを使うかは、病状と学習のねらいに合わせて選び、組み合わせる。
できないことを数えるより、どの形なら体験できるかを考える。
映像で済ませる前に、材料や場所を変えれば実際にできることがないかを確かめる。
少人数の学級で、話し合いの場を作る
病院の中の学級や特別支援学校(病弱)は、一つの学級の人数が少なく、ベッドサイドでの授業はほとんどが一対一になる。友達と意見を出し合って考えを深める学習が成り立ちにくいので、テキストは、体育や音楽などで複数の学年や学級の合同授業を行うこと、ICT 機器や情報通信ネットワークを使ってほかの教室や学校とつなぐことを挙げていた。解説も、タブレット端末で教室にある具体物を遠隔操作できる場面を作るなど、療養中でもできる限り主体的・対話的な活動ができるよう工夫することを挙げている。たとえば理科の実験の前に、病室と教室をつないで、それぞれの予想を画面に出して比べ合うと、一対一の授業でも他者の考えに触れる場面が作れる。
自立活動
病気の子どもに多い指導内容
テキストは、慢性疾患のある子どもに必要とされる主な指導内容の例を、自立活動の「健康の保持」と「心理的な安定」の区分で示していた。
| 区分 | 指導内容の例 |
|---|---|
| 健康の保持 | 自分の病気の状態を理解する(体の仕組み、病状、治療法、感染の防止など)。安静・食事制限・運動量の制限の意味を理解する。食事・安静・運動・清潔・服薬などの生活習慣を身に付ける |
| 心理的な安定 | 病気や入院による不安を和らげ、安心して参加できる活動を工夫する。体育・音楽・造形などの活動で気持ちを安定させる。持続的な作業や作品づくりで、自信と意欲を取り戻す |
ほかの障害と同じく、6区分27項目の中から一人一人に必要な項目を選び、相互に関連付けて具体的な指導内容を決める。病気による運動や食事の制限は、医学的な情報や助言を受けて把握する。
たとえば、体調が悪くなっても自分から休みたいと言えない子どもがいるとする。目標を「体調の変化に気づき、それを伝えて休憩を求める」と決め、休みたいときの合図を本人と決めて、授業の中で使う練習をする。その日の病状と、どんな条件なら合図を出せたかを記録し、目標や手立てを見直す。
時間と形を、病状に合わせて組み替える
自立活動の時間における指導の授業時数は、学習指導要領で、障害の状態に応じて適切に定めるとされている。各教科の指導と関連させた自立活動の指導は、時間の多い少ないにかかわらず続く。テキストは、不安が強い子どもについては、初めは自立活動の時間を多くとり、教師との信頼関係ができて不安が和らぎ、各教科の学習に少しずつ参加できるようになったら、自立活動の時間を週2〜3時間程度に減らすといった組み替えの例を挙げていた。この時間数は一つの例で、基準ではない。組み替える時期の目安として、国立特別支援教育総合研究所の「こころの病気のある子供の教育支援 Co-MaMe ガイド」(2024)にある「受容期・試行期・安定期」などの支援の時期が参考になるとしている。
指導の形は一対一の個別指導が基本になる。病状の悪化で気持ちが不安定な子どもや、集団に入ることが難しい子どもには、個別の指導が欠かせない。病気の種類ごとのグループや学級単位で指導することもあるが、初めから集団を前提にせず、個別の指導計画に基づいて形を選ぶ。
評価では、その日の病状や心の状態を把握し、それを評価に反映させる。進行性の病気では、以前できていたことができなくなることがあり、不安が強くなったり無力感に陥ったりすることもあるとテキストは述べている。
医療との連携と、情報の扱い
病状が悪化すると、心理的にも不安定になりやすい。教師は日常的に体調をつかみ、主治医や看護師などの医療関係者と連携して指導を調整する。退院して家庭や前籍校に戻ったあとに再発し、再入院することもあるので、家庭や前籍校とも生活の仕方をそろえておく。活動量の目安、休憩の取り方、服薬、体調が悪くなったときの対応などを、本人・保護者・医療関係者・前籍校と確かめておく。
連携するときには、病名などのプライバシーや、本人への病気の告知に関わる問題がある。どの情報を、誰と、どこまで共有するかを本人・保護者に確かめ、情報を厳重に管理する。
進路指導とキャリア教育
テキストは、病気のある子どもの進路指導で大切にしたいことを次のように挙げていた。
- 進学や就職の情報は、見学や体験で実際に感じた体の負担も含めて提供する
- 自分の病気を管理する力を、自立活動を中心に医療と連携しながら育てる
- 療養や入院のために集団での経験が少ない子どもには、集団活動や就業体験で社会性を育てる。進学や就職の後に、自分に必要な配慮を周りに伝える(意思の表明)力も育てる
- 卒業後も療養を続ける生徒には、在宅での就労や趣味の広がりなど、生活の質を高める学習も用意する
小学校の段階では、自分で活動を選ぶ、自分の得意なことを知る、困ったときに助けを求める、身近な仕事について知る、といった経験の積み重ねがキャリア教育になる。入院中で行動が制限される子どもには、病院の職員へのインタビューや院内の調理室・薬剤部の見学、ICT を使った遠隔での職場体験など、活動の範囲を広げる工夫が行われているという。病院の職員へのインタビューは、身近な仕事を知る学習の一つの例になる。
地域の学校を支えるセンター的機能
病気のある子どもの多くは、通常の学級でも学んでいる。地域の学校の先生が困ったときに頼れるのが、特別支援学校のセンター的機能である。2005年の中央教育審議会の答申「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」は、特別支援学校に期待されるセンター的機能として次の六つを例示した。その後、学校教育法第74条に、特別支援学校が小・中学校等の要請に応じて必要な助言や援助を行うよう努めることが定められた。
| センター的機能 | 病弱の特別支援学校での例 |
|---|---|
| 小・中学校等の教員への支援 | 病気のある子の指導についての助言、個別の教育支援計画づくりの支援 |
| 相談・情報提供 | 本人・保護者・教員からの相談に応じ、病気や制度について情報を提供する |
| 幼児児童生徒への指導・支援 | 巡回での相談や指導 |
| 関係機関等との連絡・調整 | 医療・福祉・労働などの機関と学校をつなぎ、支援の方針をそろえる |
| 教員に対する研修協力 | 病気の基礎知識や遠隔授業の進め方の研修 |
| 施設設備等の提供 | 専門的な設備や機器を、地域の学校や障害のある子ども本人に提供する |
答申は、センター的機能をすべての特別支援学校に一律に求めず、各学校の実情に応じて対応するのがよいとしている。小学校の担任として相談するときは、自分の地域の特別支援学校がどの機能を担っているかを、校内の特別支援教育コーディネーターを通して確かめるのが近道になる。
教員として考えたいこと
病気の子どもへの配慮は、守ることに偏りやすい。学校生活管理指導表で「できる活動」を確かめ、できる範囲の中で、どうすれば体験や話し合いに参加できるかを考える。体験を届ける形の表は、通常の学級で長く休んでいる子への学習の届け方を考えるときにも使える。
病気のある子どもが学級にいたら、授業の前に、その日の病状、その時間の目標、参加の方法、休憩の条件の四つを確かめておく。
参考:国立特別支援教育総合研究所『特別支援教育の基礎・基本』「病弱・身体虚弱」の章/特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年告示)解説 各教科等編 第3章 第5「病弱者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校」/中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」(2005)第3章